
青木正美『ある「詩人古本屋」伝 風雲児ドン・ザッキーを探せ』(筑摩書房、二〇一一年二月二五日、装幀=間村俊一)を読了した。おもしろかった。大正十四年に詩集『白痴の夢』(ドン社)を出版して一躍ダダ詩人として脚光を浴びたドン・ザッキー。彼は一瞬の輝きを見せて詩の世界から消えてしまった。そんなごく一部の人にしか知られていない伝説的な存在だったドンがじつは高松堂書店という古本屋の店主であり、初期の『古書月報』を編輯していた都崎友雄(つざき・ともお)だったという事実が徐々に明らかにされて行く。本書は一般的な伝記というよりも、その探索の過程を仔細に叙述した随筆的作品である。
著者・青木正美さんも一流の古書店主。青木さんは一九八七年の明治古典会(業者のための市会)でまったく無名の青年詩人・高木洞麓(本名不明)の日記帖を入手したことから面識もあった都崎友雄がドン・ザッキーであることを知ってしまう。高木はドン・ザッキーの書生のようなことをして雑誌『世界詩人』の発行を手伝っていた(!)。ここからドン探求がスタートする。
まずは都崎のことを知っていた古書界の先輩たちに「ドン=都崎」のことを尋ねてまわるが、反町茂雄、飯田淳次、小梛精以知をはじめとして、ほとんど誰も二人が同一人物だったことを知らなかった。唯一の例外はペリカン書房の品川力……と、それぞれが短い描写ながら特徴をよくとらえた古本屋列伝にもなっている。さらに伊藤信吉、佐々木桔梗、庄司浅水らのコレクターや研究者らの反応も興味深い。
下の写真は本書より「世界詩人第一回公演会記念撮影(大正14年11月3日於築地小劇場)」。『世界詩人』第三号(一九二六年一月一日)の巻頭に掲載されているという。内堀弘『石神井書林日録』(晶文社、二〇〇一年一〇月三〇日)においてすでに公開されているが、比較してみると人物がより正確に特定されているようだ。

本書の指示に従って一部の人物にナンバーをふってみた。全員については本書参照。丸で囲ったのが高木洞麓。
1 ドン・ザッキー
2 永井叔
3 秋田雨雀
4 遠地輝武
5 萩原恭次郎
6 壷井繁治
7 中西悟堂
8 局清(秋山清)
9 村山知義
10 橋本健吉(北園克衛)
上記以外で姓名が挙っているのが、原実、相沢晃、竹内越村、赤松月船、松本淳三、斎藤峻、野川隆、ウルガワ、大島唯史、尾瀬敬止、西川勉、相川俊孝、能智修弥、大島総一、深谷進。
青木正美さんには一度だけお会いしたことがある。今はなき『彷書月刊』編集部を訪ねて田村治芳さんと雑談していたとき、ちょうど青木さんが来合わせた。反町茂雄についての原稿(『古書肆・弘文荘訪問記』日本古書通信、二〇〇五年、としてまとまるもの)を持参し、田村さんに何事か相談されていたのをなつかしく思い出す。