『漱石全集補遺』(漱石全集刊行会、一九二五年)。「漾虚碧堂」、漱石の書斎号。宋の禅僧の句にちなむそうだ。刻=郊處。長辺が五センチほどもあるので、捺印も容易ではなかったろう。もちろん歿後刊行だから、押したのは、夏目家の誰か、あるいは岩波の小僧さんか(小林勇の回想にあったように思う)。検印紙ではなく奥付紙に直接捺印している。たぶん製本前に奥付頁だけを別にしていたのだろう。部数は三千とか、そのくらいではなかったろうか(? 補遺だからもっと少ないかもしれない) ときとしてブレたりしているものも見る。
芥川龍之介『河童』(細川書店、一九四六年)。「我鬼」。これはいいもの。好きだ。言うまでもなく歿後二十年になろうとする頃の本だから、旧蔵印と考えていいのだろう。岩波版の全集はまる味のある「龍」印。
太宰治『人間失格』(筑摩書房、一九四八年)。「人間失格」と未完の「グッド・バイ」を収める。「グッド・バイ」を読む限り死にそうな気配はないのだが……。印としてはとりたてて言うほどのことはなし。
吉田健一『近代文学論』(垂水書房、一九五七年)。「楽」。さすがである。