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塚本邦雄の青春楠見朋彦『塚本邦雄の青春』(ウェッジ、二〇〇九年二月二三日、装丁=間村俊一)。先日の神戸での季村敏夫さんたちのシンポジウムの会場で楠見氏より頂戴した。ウェッジ文庫オリジナル。第8回前川佐美雄賞受賞。 塚本邦雄の正体は何か? 出生から青春時代、処女歌集『水葬物語』(メトード社、一九五一年)刊行までの真実を探る。年齢の鯖読みが明らかにされ出身校の伝説がくつがえされている。まるでテレビ・タレントみたいだが、ある意味でそういう道を歩むことが戦後の歌人(詩人)にも求められた、のかもしれない。 ちょっとびっくりしたのはこの記述。塚本は徴兵検査の後、呉の鎮守府へやらされた。主計兵として。そこで映画を観たり喫茶店に入るなど、それなりの青春を楽しんでいたようだ。 《邦雄は呉の貸本屋「桃太郎図書館」で、よく本を借りていた。 太宰治の『晩年』と、強烈な出会いがしばしば語られる萩原恭次郎の『死刑宣告』の二冊は、空襲がひどくなったので返却がままならなかった。広町にも貸本・古書店があり、足しげく通った。 広の小川書店経営者はたまたま『木槿』同人で、あるとき、邦雄が会に入ったということを聞くと、これからは無料で良いと言ってくれた。これ幸いと、邦雄は店にある本をすべて読破した。》 『死刑宣告』が呉の貸本屋に並んでいた! 嘘みたいな話。返却がままならなかったというか、返したくなかったのか。時期的には少し遡るが『古本年鑑1935』を見ると呉市には中通5に「中国堂」、中通6に「吉本勉強堂」という古書店があったようだ。 もうひとつ、昭和二十四年に塚本が『またいち』という会誌に発表したマニフェストからの引用が印象に残る。 《自分はモダニストであると規定する。ただし、「青春の火遊びのために、ダヾイズム、シュルレアリスム、キュビズム等々の風潮を玩具のやうに輸入した戦前のモダニストを心から軽蔑する」とし、彼らが戦中に一様に「東洋的、日本的なものへ急降下した実例は私に冷静な反省を促すのである。」》 とはいえ、ある意味で《東洋的、日本的なものへ急降下》することが昭和十年代のモダニズムだったのではないだろうか。モード(mode)こそモダニズムの語幹であるから。日本回帰は戦時のモード。ピカソは第一次大戦中パリ市内での軍隊の行進を見てキュビスム絵画を思いついたとどこかに書いてあったが、いつだって戦争ほどモダンなものはなかったのである。 また『短歌研究』モダニズム短歌研究特集(一九五一年八月)でも塚本は短いマニフェストを著した。「戦いと戦いの谷間」である「近代」という時間は、「勇気と誇りを持つ青年のみが生き得る」のだという。楠見氏によればこの「近代」という言葉はおそらくランボーの「別れ」の一節「断じて近代的[ルビ=モデルヌ]でなければならぬ」を踏まえている。 「別れ Adieu」は「UNE SAISON EN ENFER」の最後に置かれた散文詩。鈴木創士訳では「訣別」。 絶対に現代的であらねばならない。(鈴木創士訳) Il faut être absolument moderne. そして塚本世代の心情を代弁した一句もいい。 鶏頭に雨鋭しや死ぬまで予後 楠本憲吉 モデルヌとは死からの生でもあった。「予後」とは「実存」だろうか。
by sumus_co
| 2010-11-13 21:17
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