佐佐木信綱『明治文学の片影』(中央公論社、一九三四年一〇月二五日)。《先輩交友からおくられた書簡を収めて、その思ひ出を書き識すこととする》と序文にあるように、中野逍遥から内藤湖南までちょうど百人の文化人の書簡の写真とその解説からなる。たいへん面白い書なので、その筆蹟などいずれ紹介してみたいが、今は目次に見える敬称について書いておきたい。
君
先生
翁
老師
刀自
博士
居士
女史
夫人
男
子
公
伯
侯
将軍
これだけの種類がある。君はだいたい同輩に用いられており、いちばん数が多い。女史は樋口一葉女史のみ。女史の本来は文書をつかさどる女官の意味だが、名声ある女性の敬称。男子公伯侯将軍博士はむろん位である。居士は位はない(仕官していない)が徳の高い人物。福地桜痴と依田学海に付けられている。学海は文部省の役人で正六位だから居士とはいえないかも(?)。刀自は夫人と同じく貴婦人に対する尊敬語。老女を意味することもある。
で、「氏」は用いられていない。姓名の下に敬称として氏を付けることがいつごろから行なわれるようになったのか? たぶん明治時代だろうとは思っているのだが、もちろん家の名(あるいは苗字)に付ける方が意味としては妥当である。中国では姓(部族)から別れた氏族が「氏」で、日本とは姓・氏の用い方が少し違う。
装幀は小村雪岱。表紙の小鳥がかわいい。函があるようだが、函には装飾はないらしい。表紙の裏表で小鳥の位置が変っている。