
古い書皮を頂戴した。裏返しに使ってタイトルを手書きしてある。野間宏『暗い絵』は真善美社が一九四七年に初版を刊行した。

表にしてみると東京渋谷宮益坂上中村書店の包み紙だった。
中村書店についてはレッテルも取り上げた。
http://sumus.exblog.jp/13955996

もう一枚、伊藤整『石を投げる女』(竹村書房、一九三八年)。ちょうど『日本古書通信』八月号で曾根博義さんによる解説を読んだところ(もう忘れていたが検索して思い出した)。この本の校正を担当したのは平野謙だった。昭和十二年の夏、竹村書房を手伝うことによって『石を投げる女』に収められている一篇の小説「蹉跌」(初出時「破綻」)が大幅に手を入れられていることに気づいた。マルクス主義との関わりがテーマだった。
《校正を担当してその一部始終を知った平野謙は、このような内容の小説がマルクス主義とは縁がないと思っていた伊藤整というモダニズム作家によって書かれたことに大きな衝撃を受けると同時に、日中戦争開戦直後の時勢の変化に対する著者の敏感な反応にも驚いたという》
そしてこの体験をもとにして書いた伊藤整論は戦後広く知られることになる「三派鼎立図式」(昭和文学は私小説・マルクス主義文学・モダニズムの三派から成る)の素描となった。ということである。

包み紙を引っくり返すと世田谷区三軒茶屋交叉点三茶書房とある。この人物模様は篆書になぞらえているのか? 天、令、亥……のように見えなくもない。