『図書設計』79号(日本図書設計家協会、二〇一〇年七月一日)を頂戴したので、ながめていると「本を持つ手」という記事(というよりも図版)が目にとまった。本を読んでいる、あるいは本が描かれた絵を九点ほど掲げて説明してある。なかではこの絵が気になった。
《印刷技術の普及で識字率が上がり、あちらこちらの街で売り歩く行商人。チャップブックマンと呼ばれた》
と説明されているが、調べてみると、残念ながらこれはフランスの行商人だった。「行商人 Le colporteur」十七世紀、フランス画派(作者不詳)。イギリスなら売り歩くのは「チャップブックマン」ではなくて「chapman」(行商人=チャップマンが売るからチャップブック)。
フランスでは彼らの売る本は青本(livres bleus)と呼ばれた。一六〇二年、トロワ(Troyes、セーヌ川上流の町)の出版人ジャック・ウド(Jacques Oudot)が使い回しの活字と挿絵原版を用いて初めて発行したという。それらはフランス全土で行商人(メルシエ merciers またはクリウール crieurs と呼ばれた)によって販売された。15×21cmほどのサイズで表紙は砂糖の塊を包むのに使われていた青い紙だった。だから青本。日本なら赤本(表紙に赤色が目立つ大衆向けの廉価本)に相当するだろう。
トロワで印刷された小型本は十九世紀の前半まで売られており、フランスの各地で摸倣され、類似本が多数出版された。タイトルはおよそ1200ほどもあるようだ。内容はオリジナル版を、読書習慣のない大衆が求めるように、アレンジし直して要約したもので、著者名はほとんど記されていない。料理法、占星術、植物そしてあらゆる読物が刊行された。例えば騎士道物語は十七世紀の終りまでに廃れ、ペローの童話などが十八世紀から十九世紀にかけて現れた。また権力側にとって不都合な内容が青本によって大衆に普及する役割を果たしたため、繰り返し規制が行なわれたという。
イタリアにも同じような本の行商人の街があったらしい。モンテレッジョにある本の行商人の記念碑。
http://www.flickr.com/photos/maurizioplutino/2103117225/
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ペンギン・ブログを久しぶりにのぞいたらニューヨークの本屋巡りの記事あり。休暇で行ってもやっぱり本屋ばかりのぞいて過した、という御同病の方。
They Do Things Differently Over There; or, A Pictorial Tour of New York’s Bookshops
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『
苔花堂書店古書目録 本の庭6』(二〇一〇年八月)が届いた。あまり買わせてもらったことがないので申し訳ないが、この号の特集は「子どもの本」、これがなかなかの力作目録になっている。そう言えば、明治時代の絵物語なんか古本まつりでは滅多に見たことがないなあ。え、探してる場所が違う?