パリのジベール・ジョゼフの店頭安売りコーナーで買ったジョルジュ・ペレックの『Les choses』(邦訳は『物の時代・小さなバイク』弓削三男訳、白水社、1978年)をやっと読み終わった。0.5ユーロ(今なら六十円弱)。投げ出さずに読めたのはけっこう面白かったということだろう。
chose(ショーズ)というのは英語なら thing(物、事)。定冠詞・複数形で「事態、現実」というような意味でも用いられるようだ。小説らしくない小説で、いきなり部屋にあるモノを列挙してゆくという手法が新鮮。しかも動詞がみんな条件法現在型だ。ストーリーらしいストーリーもない。カップルの学生が研究生活を続けずにコマーシャリズムの仕事をはじめて金を稼ぐことに馴れて気付いてみるともう三十歳前、心機一転して生活を改めようとチュニジアに渡ったりするが、結局はパリにもどって元の仕事をまた始める……、とそんな感じ。ただただ物質的な生活を追求することだけが目的になっている戦後のある世代の感覚を代弁した。
ペレックは一九三六年にパリの東欧系のユダヤ移民が多かったベルヴィルで育った。父母ともにポーランド系ユダヤ人。ローラン・トポールと同じである。ただペレックは戦時中に父母を失っている。母はアウシュヴィッツで死んだと言う。ペレックはリセ・クロード・ベルナールからコレージュ・エタンプ、そしてアンリ・キャトルのイポカーニュ(hypokhâgne, 文学予備クラス)を経て国立科学研究所に勤める。一九六五年に『Les Choses. Une histoire des années soixante』 (Julliard, collection Les Lettres nouvelles, 1965)でルノドー賞(prix Renaudot)を受けて一躍文壇に躍り出た。そのあとすぐにレイモン・クーノーやカルビーノらのグループ「ウリポ l'Oulipo」に参加している。一九八二年に死去。遺灰はペールラシェーズのコロンバリウム(遺灰安置所)に保存されているそうだ(エルンストと同じ)。

これが初版。以下いろいろな版が出ている。