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トポールの眼![]() Mさんに頂戴した『開廊20周年 トポールの眼』(アートギャラリー環、一九九七年第二刷)をひもとく。巻頭の山口昌男へのインタビューはあまり内容がない。ちょっと自慢話っぽいが、とにかくトポールの家に行ったときの印象はメモしておくに値する。一九八〇年頃、パリでウナック・トーキョーの上海氏に紹介され(トポールはウナックでも展覧会をやっている)、三時間ほどトポールのアパルトマンにいた。 《色々な女性に会いました。前の奥さんだった人、今の奥さん、それに息子さんの家庭教師、入れ替わり立ち替わりという目まぐるしい感じでした。忘れてしまったけど、色々なことを話しました。一つ覚えているのは短いアニメーションでした。今遊びがてらこんなヴィデオを作っているから見てくれないかと云って見せてくれたのは愉快だった。二つのブランドの違うカマンベールを使った競争ですね。カマンベールのチーズは融けやすいので融けた先端を毎秒くらいにフィルムに収めると自然にアニメーションになってしまう。》 それから澁澤龍彦訳『マゾヒストたち』(薔薇十字社、一九七二年)からジャック・ステルンベール「トポールの前口上」および澁澤龍彦「あとがき」が再録されている。後者はやはり『ハラキリ』に触れている。澁澤の手許に一九六五年三月の『ハラキリ』があったそうだ。そこにトポールの漫画が四点載っていた。 《このフランスの奇妙奇天烈なパロディ雑誌、フランス語読みにすれば「アラキリ」を、パリからわざわざ私に送ってくれたのは故三島由紀夫氏なのである。》《いずれにしても、後年の三島氏の自決の方法を考え合わせると、ふとした氏の思いつき、あるいは悪戯までが、何か意味があるように思えてくるから不思議である。》 他に、鈴木昌弥「1970年代のある記憶」、稲木茉莉「ロラン・トポルの笑い」、そして榎本護による「ロラン・トポール インタビュー」(一九九六年四月八日、トポール氏宅にて)。トポールはインタビュー好きで、というか、山口の回想にもあるように来る者拒まずのところも大いにあったようで(好き嫌いははっきりしていたようだが)、たくさんのインタビューを受けている。テレビなどで放映されたものの一部はネット上で見ることもできる。よってトポールも断っているように、おなじようなことを方々で話していたようだ。なかではこんな発言が目にとまった。 《たとえば、私が初めて書いた小説『幻の下宿人』は、とても苦労した作品で、仕上げられるかどうかさえわからずひどく不安でした。ですから、私からみればそれはもっとも大切な作品なのです。》 ![]() 先日の四天王寺で『ブラック・ユーモア選集第一巻幻の下宿人』(榊原晃三訳、早川書房、一九七〇年二月一五日、函・表紙・扉=勝呂忠)を首尾よく安値で手に入れ、帰りの電車でほとんど読んでしまったところだった。力作だ。 パリのアパルトマン(あるいはどこでもいいが都会の安アパート)に住んだことのある人ならゼッタイに共感できる。そして後半のカフカばりの恐怖はトポールの戦時中の体験を思わせる(小学生だった、両親と離れナチを逃れてフランス南部に隠れていた)。オチはやや強引な感じもいなめないにしてもこれはブラック・ユーモアなどではなかろう。ヌーヴォ・ロマンとして読むに耐えるものだ。 さらに《あなたにとって現実的なもの le reel とは何ですか?》という問いに次のように答えているのには、彼の作品の本質に触れたものとして納得するしかなかった。 《それは、痛みを与えるもの ce qui fait mal ですよ(笑)》 マル(mal)には「苦痛」の他に「悪」「禍」という意味もある。
by sumus_co
| 2010-05-02 17:30
| 古書日録
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