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突飛なるものの歴史

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突飛なるものの歴史_b0081843_2192558.jpg


ロミ『突飛なるものの歴史』(高遠弘美訳、平凡社、二〇一〇年四月二三日、ブックデザイン=鈴木成一デザイン室)は一九六四年に元版が刊行されている。高遠氏による詳細なロミの紹介を読んでいて、《ロミは「ビザール」誌の創刊時のメンバーであり》という一文を見つけて嬉しくなった。このところみょうにトポールにとらえられているのと、それを見計らったようにこの本が届いたのとが、まったく突飛(アンソリット)な結びつきではないところが、じつにアンソリットに思われる。

ロミは要するにシュルレアリストだった。トポールがシュルレアリストだったのと同じ意味で。本書はシュルレアリスムの戦後における重要性と限界を改めて感じさせる怪著である。下手な内容の紹介は控えたいというか、再録されている種村季弘による作品社版(一九九三年)の序文に尽きる。

《この本に遭遇した六〇年代の出版状況を思い出してみよう。私自身は当時G・R・ホッケ『迷宮としての世界』やJ・バルトルシャイティス『幻想の中世』にはじめてお目にかかり、同時に「ビザール」や「プレクサス」といった通俗シュルレアリスム的リトル・マガジンを読みあさっていた。玉石混淆、みそもくそも一緒くたにアンソリット趣味に入れ揚げていたわけだ。だからロミのように考古学者とディレッタントが同居して八方破れのごった煮をぐつぐつ煮立てている作家に出会っても、べつだん異とするには当たらないと思っていた。
 時代の潮流はしかし、まもなくマルクス主義や構造主義の構造分析に移行した。アンソリットなものにひたすら無邪気にびっくりしているだけではなく、それがどんな文化コードから成り立っているのかの分析が問われたわけである。それはそれでおもしろくないこともなかった。しかし大道香具師がぺらぺらと分析的能書きばかりをまくし立てて、いまかいまかと待っている肝腎のブツをなかなか見せてくれないのにーーやっと出てきたブツは見るからにガセネタということもあって、そこがまた一興ーー、いやいささかあきあきしていたのも事実だ。そこへひさびさのうさんくさいアンソリットがぬっとばかり登場。胸がすく。》

なんとも名調子で時代の変化と本書の位置付けまで見事に示した秀逸な文章である。《やっと出てきたブツは見るからにガセネタ》というくだりはおおいに共感する。その意味でロミは目利きなのである。目利きでなければシュルレアリストとしての存在意義はなかったわけだ。だから目利き特有の欠点も見え隠れするとも言える。

個人的には「ブノワ氏の交感性エスカルゴ」の紹介に耳を疑い目をみはらずにはおられなかった。つがいのエスカルゴ同志にはテレパシーがあるという仮説からエスカルゴの動物磁気の変化を文字盤に反映させて通信に使おうという発想である。

《この装置によって、どんなに遠くでも、考えたことを文字にしさえすれば、エスカルゴの電気ショックの働きでやすやすと、それを即座に伝えることができる。》

あれ? これってまさか携帯メールのこと。携帯の中にはエスカルゴが入っていたんだ(ってまさかね)。ブーソールと呼ばれるこの機械においては

《ごく小さいエスカルゴを入れて使う、せいぜい大きめの懐中時計ぐらいの携帯用ブーソールの大量生産も考えられた。》

やっぱり携帯電話にはエスカルゴが……なんて。とにかく時代とともに、ロミも書いているごとくに、突飛なるもの(アンソリット)がまったく突飛でなくなるじつに明瞭な一例を見た思いがする。

もちろんこんな面白ガセネタばかりじゃなくて、ダダからアルマンまでを紹介するアートの項目はかなり的を得た内容でロミの目利きぶりがよく分かる。とにかく、一度読んでもらえば、いや、見てもらえば小生の言いたいことは理解してもらえるだろう。高遠氏の訳文もよどみなく見事。完訳『Oの物語』(学習研究社 、二〇〇九年)も読んでみたくなった。ピンクの栞がまた凝っている。

ついでに元版の書影も探してみた。
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by sumus_co | 2010-04-29 22:06 | おすすめ本棚
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