五木寛之『わが心のスペイン』(晶文社、一九七二年一月三〇日、ブックデザイン=平野甲賀)。『sumus』13号の「島田孝久さんインタビュー」にこの本に関してこういう発言がある。
《島田 そういえば、一九七二年に五木寛之『わが心のスペイン』を出したんです。長田さんが編集したと思います。五木さんは小説家としては売れっ子だったけど、エッセイはどうなのかなあ……と不安だったんですが、出た直後に五木さんがラジオで「晶文社という小さな小さな出版社が俺の本を出してくれた。明日、新宿の紀伊國屋でサイン会をやるから、みんな来い!」と呼び掛けたんです。で、当日になってみると、若い連中が五百人並んじゃった。当時の紀伊國屋では最高の動員だったそうです。本が足りないので、取りに帰りました。五木さんがまた丁寧に、毛筆でサインをして落款まで押すんで、とても営業時間までに終わらない。それで、引換券を渡して、後日店に取りに来てもらうことにしました。》
武蔵美にも一般教養の授業に「文学」というのがあった。保昌正夫先生が教えておられた。これについては「さらば、父たち」という題で書いたことがある(『サンパン』3期4号、保昌正夫追悼号)。保昌先生が授業でおっしゃったのは、五木寛之のエッセイは見事だ、ということである。小説の方はどうおっしゃったか、あまりはっきり記憶にないが、そこそこだというようなところだったかも知れない。だから小生はずっと五木を極上のエッセイストと見なして来た(実際に読んだかぎりでも先生に同感できた)。
で、この本だが、これはもうまったく装幀で買ったのである(もちろん古本です)。エキストラブラックという真っ黒いマットな紙に白と黄色のインクで刷ってある。「平野さん、無茶しよるな」という手法だ。ジャケットだけでなく表紙も見返しも扉までエキストラブラックに白インク。シビレまくり。いっぺんパクろうと、ずっと思っているが、こんなデザインにできるのは、自分の本以外にないだろうなあ……。
内容は五木寛之がスペイン内乱を勉強した、その経過報告のようなもの。スペイン内乱がテーマではありながら、本当のところは、まだ当時は終結していなかったベトナム戦争(いや戦争そのものか)に対する知識人の態度への興味である。興味というか、自分はどうすればいいのか? という答えを求めての旅である。ある意味、エリート主義の時代がまだ続いていたとも言えるが、いま現在われわれがオバマの戦争に対して感じるべき焦燥にさえも、ある程度答えるだけのしなやかさはもっている。ちょっとカッコよすぎるけど、まあ五木寛之からそれを取り去ることはできないのだから致し方ない。