原民喜『夏の花』(晶文社、一九七〇年七月三一日、装幀=駒井哲郎)。『sumus』13号に収録した一九七三年版図書目録にはこう謳われている。
《 遠き日の石に刻み、砂に影おち、
崩れ墜つ、天地のまなか
一輪の花の幻
——戦後の日本文学が生んだ忘れえぬ名作。「広島が言わせる言葉」の原点を透明に指ししめし、今は失われた希有の魂のありかを証す珠玉の秀篇。竹西寛子解説。八〇〇円》
『夏の花』の初版は昭和二十四年に能楽書林から刊行された。そこの編集室で原民喜は『三田文学』の編集をしていたのである。
能楽書林は『三田文学』の作家・丸岡明の父で歌人でもあった丸岡桂が明治四十年に観世流改訂本刊行会として創業した。昭和十一年に丸岡出版と改称し、二十四年に能楽書林となったようだが(『出版人物事典』)、実際には昭和二十二年から出版物がある。戦後の一時期、木村素衛、野上豊一郎、渡邊一夫、西脇順三郎らの文芸書を刊行した。古い社屋が下記サイトに出ていた。
ぼくの近代建築コレクション「能楽書林/神保町3丁目」
http://blog.goo.ne.jp/ryuw-1/e/edf32a5fe7ee995964f8717e188f7247
晶文社版には《一九六九年九月十五日初版の三冊本『原民喜全集』(芳賀書店版)に従って、三篇の順序を収録のとおりにした》と巻末に書かれている。芳賀書店といえば、あの神保町に本店のある芳賀書店。創業は昭和三十二年。以前こんな目録を手に入れた。
『近代文学』とか『新日本文学』に近いラインナップ、と思えば、武者小路実篤シリーズもあり、『末摘花』や『江戸から東京へ』そして実用書も揃っている。なかなかである。