大川渉『東京オブジェ』(ちくま文庫、二〇一〇年一月一〇日、カバーデザイン=倉地亜紀子)。文庫オリジナルが出た。大川氏の『文士風狂録』(筑摩書房、二〇〇五年)では表紙画を提供させていただいた。また以前『短編礼賛—忘れかけた名品』(ちくま文庫、二〇〇六年)を頂戴した。今、見るとそのカバーデザインは
多田進さんだ。なるほど。(話がそれるが、多田さんが一月十六日のブログで紹介しておられる『死のフーガ パウル・ツェラン詩集』は欲しくなる一冊。目下「日本の古本屋」には出ていない。他所にはあるが……)
『東京オブジェ』は『ちくま』と『ツインアーチ』の両誌に連載されたエッセー四十六編をまとめた文庫オリジナル。美術、文学、スポーツ、映画音楽、演芸、歴史の六章に分けられているが、とにかくある時代の大衆の心をつかんだヒーローたちの記念碑を訪ねて、その概要を記している。
美術の章ではトキワ荘、港屋、写楽、長谷川利行、玉の井、加太こうじ、岡本太郎、岡倉天心がらみのオブジェが選ばれている。小生が実物を知っているのは竹久夢二の港屋絵草紙店の碑だけだ。これは東京駅の東側にあって、道に迷ってウロウロしてときに偶然見つけた。大正三年の開店だというが、当時はどんな風景だったのか、現状からはまったく想像すら及ばない、オフィスビルの片隅に建っていた。
それにしてもこんなオブジェがあちこちにあるもんだ。おおむねマジメな記念碑が選ばれていて、決してふざけたものはないのだが、なにかオブジェの異形な様子にあきれつつ思わず引き付けられてしまう。なかでは、たこ八郎や力道山、ハイセーコーといったスポーツ関係の各編がとくに印象深かった。だいたい一編の文章は三頁か四頁、写真が一枚(ほとんどが大川氏撮影)。これでたとえば力道山について終焉の謎を中心に出自からの全体像を見事に描き出している。現地踏査はもちろん取材もふまえ、資料も読み込んでいるわけだから、ライターとしては当然だと言われればそれまでにしても、なかなかこうは書けないような気がする。短くても内容が濃く、淡々と客観視しているようでいて、切り口そのものによって大川流の技を見せてくれる。巻を置くあたわずという感じで読了した。
妄想にすぎないけれど「大阪オブジェ」ならどうなるんだろう? トンデもなくて本にできないとか。大阪ご出身とのことなので、是非いずれ挑戦していただきたい。