神戸の震災から十五年、ハイチの地震は桁違いの惨状である。この地図は『NEWEST ATLAS OF THE WORLD』(三省堂書店、一八九八年一〇月二〇日)から取った。明治三十一年発行。おそらくはイギリスあたりで出版されていた地図を日本でコピーしたものだろう。
この時期のハイチ(フランス語ではアイティ、英語ではヘイティ)は不安定な共和制で、ドイツの侵入を警戒したアメリカが一九一五年から統治に乗出し、一九三四年まで軍政を敷いたという。公用語はハイチ語とフランス語だが、英語も通じるのはそのためのようだ。
三余学寮編『外国地理辞典』(田中宋栄堂、一九〇七年一月二〇日)にはこうある。
《ハイチキヨワコク Haiti共和国)西インド諸島中、キユーバの東にあり。長さ四百哩、幅百六十哩、面積約三万 哩あり。地味肥沃にして、農産、林産、鉱産に富む。首府をポルトアゥプリンスと称し、珈琲、カカオを輸出す。
ハイチタウ(Haiti島)西インド諸島中、キユーバの東にある大島なり。島中ハイチ共和国、ドミンゴ共和国の二つに分かる。なほ前項を見よ。》
明治四十年にはすでに「ハイチ」という日本語が通用していたことはこれで証明できるだろう。三余学寮については何とも分からないけれど「三余」は魏志・王粛伝に見える
讀書当以三餘
冬者歳之餘
夜者日之餘
陰雨者時之餘
から来ているようだ。冬、夜、雨の日に読書をする。晴耕雨読に通ずるか、少し違うかな。この辞典は付録が面白い。世界各国の面積や人口、産物などの一覧表がある。そのうちの「人口」と「備考」を引いてみる。
韓(朝鮮) 1,051,900 日本保護の本に漸く独立を保つ。
清 4?6,447,000 国勢振はず、東洋禍根の伏在する所なり。
インド 300,000,000 英国の宝庫。
イギリス 41,607,500 其領地に太陽の没することなし。
フランス 38,641,300 世界流行の淵源地。
アメリカ 76,331,900 国の冨力は世界に冠たり。
韓(朝鮮)の人口は千万の単位が抜けているのだろう。韓国統監府の調査では1167万人(一九〇七)、一九一〇年の併合時には1313万人である。また清の人口の億の次が一字欠落しているので千万の単位が不明。メキシコの備考欄に《日本の出稼人多し》とあるのも目を惹いた。