海文堂書店の『ほんまに』10号が届いた。巻頭は「古書善行堂◉山本善行さんに聞く/本を人生の一瞬に見立てて」。エエジャナイカ北村君が担当した記事だ。すっきりと読みやすくまとまっている。「善行堂で買いました」の書影入りリストもなかなか。寺島珠雄さんの『小野十三郎ノート』(松本工房)が入っているのがさすが。
サブタイトルの「本を人生の一瞬に見立てて」は洲之内徹の「絵を私の人生の一瞬に見立てて」から取ったそうだ。やるじゃないか、ただしその直前の『スザンヌの塗り残し』は惜しかったねえ(!)
牛津太郎先生、今回は駄洒落がなくてまじめな美しい原稿になっていてびっくり。先生が紹介しておられる『書物』(向日庵私版、一九三六年)は寿岳文章自身が向日庵本のなかで最も愛着を抱いていた一冊だそうだ。上の写真は『別冊太陽 本の美』(平凡社、一九八六年)より一部を引用したもの。この本の説明は寿岳自身によってこう書かれている。
《向日庵本の中から会心の作一つを選べ、とならばこの本。ほかに言うことなし。
ブレイク挿絵全部を入れた私の邦訳『神曲』大判三冊が完成したとき、私たち夫婦は、林達夫ほか少数の心の通じあう仲間を丸の内パレス・ホテルに招いて記念の小宴を設けた。早々とやってきた福永武彦に、会が終ったら見よと囁いて、一冊だけ手もとに残っていた本書特装本を紙包みのままそっと手渡した。近来になく楽しい宴が盛りあがり、談笑席上にはちきれる頃、ふと福永を見ると、いつのまにか紙包みを披いてしまい、ひとり黙然と『書物』に見入っている。》
こんなふうに自然に自負を語れる寿岳文章はやっぱりすごい。
その他、神戸の五宮町に「古書 片岡」が今年の五月に開店したという記事を含め、油ののってきた感のある『ほんまに』10号になっている。
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こちらヨシダミノル氏。美術家。この写真は一九八五年九月に氏のアトリエ(たしか蹴上の山中だったような記憶があるが)を訪問したときに撮らせてもらった。当時は、知り合ったアーティストの肖像やアトリエを撮るのが秘かな楽しみだった。ただし、あまり長続きはしなかった。
どうして突然これを出したかというと、12日にメリーゴーランドでライブをやる予定の吉田省念氏がヨシダミノル氏の子息だと今日教えられたからである。ヨシダミノル氏が京都の現代美術系のギャラリーへ小さな子供さんを連れて出掛けてきていたのに何度も遭遇したことがあった、それをふと思い出したのだ。二十四年前とはとうてい思えないんだが……やれやれ。
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