本を探していると本箱の間からこんな古新聞が転がり出てきた。古新聞といって、なにしろ大正四年九月十日付けだから、それなりに立派な古新聞である。しかも『播但丹イナカ新聞』という命名がおもしろい。第百五号。タブロイド版(一枚二折四頁)、発行所はイナカ新聞社、発行兼編輯人は竹内周蔵、印刷人は竹内ふさ、発行所住所は兵庫県多可郡中村ノ内森本村(西脇市の日本のへそ公園のわりと近くらしい)。
巻頭は県郡会議員の選挙について述べた「議員と有志」無署名。そして床次竹次郎「治乱安危の本は任用其人を得ると得ざるとによる」は地方自治における人材登用について。この床次竹次郎は床次竹二郎(とこなみたけじろう)だろうか(?)。他には「農村の疲弊について」植木生、「郡議パノラマ」などから「笑話」「都々逸」まで載っている。
なかでは「香具師の内幕金指輪」という記事に目をひかれた。
《『ええ、ご遠慮なく御手に取つて御覧願ひます、僅十五銭か二十銭で純金の指輪が買へる、色も重量(めかた)も純金と同じ事で、湯水にお浸けになつても何時までもお用ゐになつても、此金色は永久に変りません》
こういう口上で安物の指輪を売りつける香具師を「三寸」と呼ぶそうである。ところが実際は湯に浸けたら十分間で、指にはめているだけでも二三日ですっかり色が剥げて黒ずみ、はめた指には痣のように緑青の跡が残る。その原価は三銭ないし五銭。作り方まで書いてあるが省略。
《製造元は東京にもあるが、矢張大阪が第一で南久宝寺町あたりにある》
矢張(やはり)って、当時の大阪はパチモン、バッタモンの故郷だったようだ。
《原価は素的(すてき)に安値(やす)いから、十銭に売つても折半の利益、二十銭に売れば三倍の利を見るのだから、彼等奸商は中々旨い汁を吸つてゐる訳だ、縁日とか祭日とかで、都合よくゆくと四円五円の利を見る事があるさうだ。僅か片手に持つたり、肩から掛けたビロード製の箱一つ、少し大がかりになつたとした所で半畳ばかりの店をひろげてアセチリン瓦斯を焚き三四銭の地割(ぢわり)を払ふのみで、こんなに儲かるのだから全くぼろい商売である》
と記者は書いているが、原価の三倍で奸商呼ばわりされたら古本屋なんかどうなるんだろう。10円で仕入れた文庫本を100円で売れば十倍なんですけど。とはいえ、けっこうジャーナリズムとして体裁のととのった『イナカ新聞』であった。検索にはひっかからないが……。