川浪春香『歌舞伎よりどりみどり』(編集工房ノア、二〇〇九年、装幀=森本良成、装画=川浪進)。以前にも御紹介したと思うが、川浪女史は小説家であり、篆刻もよくされる。そしてエッセイの名手でもある。本書はブログで連載されたとのことで、短い文章のなかに歌舞伎のみならずさまざまな文芸のエッセンスが注ぎ込まれている。
独白体がいくつかあるが、これがまた名人芸。ちょっと一部引用というわけにはいかない。文字通りの「独り語り」は海老蔵のファンだという老女のおしゃべり、うまいなあ。「芝居ぎらい」もゆるゆる引き込んで着地するところがびたりと決まる。小出楢重の算数嫌い・羽左衛門贔屓とか、
金山平三のひとり芝居写真だとか、美術方面の話題にも事欠かないのも嬉しい。
そうそう金山の芝居絵、あれは誰にも真似できない絶品だと思う。鍋井克之とか高木四郎とか歌舞伎通の画家はけっこういるが、金山ほどの腕はない。舞台をああいうふうに捉えられるというのが、小生画家を名乗る者として、どうしても信じられないほどだ。ただし芝居絵という観点からすれば、型破りすぎて面白味はないかもしれない。芝居というより舞台そのものの空気をつかんでいる。
ということでひさびさに楽しく読み終わった一冊である。ご主人の挿絵もいきいきしている。