黒瀬勝巳遺稿詩集『白の記憶』(エディション・カイエ、一九八六年、装幀=伊藤重夫)。これもお借りしている一冊。黒瀬勝巳については何も知らないが、栞(岩田宏、大野新、川本三郎、鶴見俊輔、谷川俊太郎)によれば、天野忠に私淑していたようだ。
《この『白の記憶』の版元になる阪本周三を、黒瀬勝巳は私たちのいる飲み屋に連れてきて紹介した。『朝の手紙』という、清潔で、いい詩集をだしている。いい詩人だという直感に黒瀬は忠実だった。阪本周三は、夫人のピアノ伴奏で「黒の船唄」などを唄った一夜を話したことがある。黒瀬はいい低音のもち主だった。この詩を朗読させると逸品だった。》(大野新)
『白の記憶』も『朝の手紙』もけっこう手に入れ難い詩集のようである。エディション・カイエは阪本周三(一九五三~二〇〇一)が、昭和五十九(一九八四)年、神戸の旧居留地の朝日ビルで、京子夫人とともに始めたプライヴェート・プレス。大西隆志、田村周平、本庄ひろしらと詩誌『ペルレス』(創刊一九ハ七年一〇月)を刊行していた。
本書は二十八の短詩がひとつの物語を成している構成。冴えのある、軽いニヒリズム(天野忠による黒瀬評だとか)、読める、読ませる作品だ。ただちょっと、おいしいフレーズがちりばめられすぎているような気がしなくもない。