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採訪記その他

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立ててある左から時里二郎『採訪記』(湯川書房、一九八八年七月三十日、装幀=加川邦章)の函、本体、黄色いのが時里二郎『胚種譚』(湯川書房、一九八三年七月二十日、装幀=加川邦章、装画=北川健次)、その下になっている白い本が時里二郎『翅の伝記』(書肆山田、二〇〇四年四月三〇日二刷、装画=勝本みつる)。時里さん三昧。「森のことば、ことばの森」は昆虫三昧。詩にも昆虫世界がロマネスクな言葉で描かれている。

『採訪記』の細い帯は書肆ユリイカがよくやっていたもの。伊達は斜めに掛けたりもしている。湯川さんもこの細い帯が好きだった。『胚種譚』も湯川さん得意の折りジャケット。並装本にちょうど古本者がグラシン紙をかけるような折り方でマーメイド紙のジャケットを被せてある。『翅の伝記』の勝本みつる氏は『江戸川乱歩全集』(光文社文庫、二〇〇三〜六年、装幀=間村俊一)の表紙オブジェが印象的だった。

時里氏の詩については安易に引用できない。散文詩ということもあるが、簡単に切り取れない彫琢を感じさせるものがあるからだ。上記ブログの文体でそれはある程度うかがえるものと思うが、ご興味のある方は是非手にとっていただきたい。湯川版もまだ作者の手元に残部ありとのこと。

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採訪記その他_b0081843_19495680.jpg


これも文庫堂での一冊、『国民之友』百拾九号(民友社、一八九一年五月二三日)。表紙が先日話題にした木口木版である。原画は原田直次郎(サインあり)で彫は「生巧館」。

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「時事」欄にロシアのニコライ皇太子の受難(大津事件)についての記事があった。明治二十四年五月十一日、日本来遊中のニコライが大津で警護の巡査津田三蔵にサーベルで斬りつけられた。『国民之友』百拾九号の発行日の十二日前のことだ。

《露国皇太子の創痍は、二ケ所なり、然れども共に頭髪の中に在りて、面部に顕はれず、故に癒合の後は、只た頭髪中に、二条の針痕を宿むるに過ざるべし、怨は刀痕に従て深かし、吾人は其刀痕の浅くして只カスリ創なりしを祝す、》

とはいえ黒岩比佐子「大津事件とロシア軍艦での午餐会ーーニコライ皇太子」(『歴史のかげにグルメあり』文春新書、二〇〇八年)によれば、傷は骨に達するほどだった。「時事」は続ける。

《驚報禁裏に達するや、我皇帝陛下は直に西に幸し玉へり、国民の各階級は皆総代を出して病を慰めたり、〔以下抹殺〕凡ての国民はその赤心を以つて露皇太子の負傷を痛恨せり、皇太子帰るに臨み、左の電報を我皇帝陛下に呈せり、
 当国に於て 陛下及臣民より受けたる懇篤なる待遇に付き更に真実感謝の意思を述へさる可らす余は 陛下及 皇后陛下か過日来表示せられたる厚情は決して忘却せさるべし〔以下抹殺〕》

我皇帝陛下は直に西に幸して(五月十二日京都入り)、ウラジオストックへ戻るという皇太子を神戸港まで見送った(十三日)。その後、神戸港にいたアゾヴァ号へニコライに招かれた明治天皇は艦上で異例の午餐会に参加した。それは十九日のことである。

この「時事」には十五日に露国皇帝(アレクサンドル三世)から電報が届いたとあって電文が引用されている。予定ではニコライは京都から東京へ向うはずだった。

《朕は一狂人の所為に依り日露の交誼を害すべからざるを信ず 皇太子平癒の上は速に東京に上るべき旨を皇太子に訓令したり》

黒岩女史の書では《本国の指令で、十三日に京都を出発し、神戸港に停泊中のアゾヴァ号に帰艦することになった》としてある。女史はニコライの日記を駆使しているので、そちらが正確だろうとは思うが、真相はどうであろう。

さらに「時事」によれば皇太子は十七日に天皇に向って《予は五月十九日乃ち火曜日露国に向て直に出発することに決定せり》と電報を打ったという。黒岩女史によれば、十八日に天皇は神戸の御用邸で午餐を差し上げたいと申し出た。おそらく電報を見て慌てたのだろう。しかしニコライ側近がそれを許さず、対してニコライ本人が艦上でお昼をいっしょにどうですかと提案したようだ。これまた天皇側近などからの猛反対があったが(拉致される危険がある)、天皇はそんなバカなと一蹴し敢えてニコライとの午餐に臨んだということである。

何とかこれで丸く収まったわけだが、その十三年後には日露戦争が起こり、その敗北によってニコライ二世(一八九四年即位)は窮地に立つ。窮地どころが革命後は処刑されてしまい、正式名誉回復が行なわれたのは昨年二〇〇八年一〇月一日だというから、まあ皇帝なんてなるもんじゃない。事件に対処するニコライの穏やかな行動からして皇帝には向かない性質だっただろうということは容易に想像できる。
by sumus_co | 2009-07-31 21:29 | 古書日録
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