林蘊蓄斎の文画な日々
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文庫堂

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〒606-8176 京都市左京区一乗寺塚本町106ー2 白川ビル1F

美術工芸が中心だが、その他全般にいい本が安く手に入る店として定評がある。店頭のワケアリ均一もすばらしく、店内も見所たっぷり。レジ廻りに注目すべし。

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昨日買ったものではこの『趣味』十六号(趣味発行所、一九三一年四月一日、表紙絵=釈瓢斎)。瓢斎永井栄蔵は安芸市出身、朝日新聞記者、昭和四年から十年間「天声人語」を担当した。その末尾に添える時事俳句にファンがついて、俳句と詩歌と随筆の個人雑誌『趣味』を創刊(昭和五年)したそうだ。絵もよくしたというが、そうたいしたものではない。俳句もどうも……。いちおう引用してみるが。

 揺り落す薮の動揺みや春の雪
 ネキタイの色の浅さも春の宵
 春光や掃けばまた出る埃にて
 草餅や皿を抑へて摘みにける

随筆陣がいい。金田素堂「虚無僧考」はなかなか読み応えのある考証。先日の尺八コンサートに関して聞いた話を補完するのにもってこいだった。他には工藤九郎「雅邦翁臨終」が面白い。明治後期の画壇ではナンバーワンだった巨匠橋本雅邦が明治四十一年正月十三日に没した後、その始末に現金が必要になったが、現金がなかった。門弟の寺崎広業は自分のパトロンでもあった堂島の相場師・和久栄之助に雅邦遺品の雪村の絵巻を持ち込んで三万円都合してくれと頼み込んだ。明治末のことだから、今なら億の単位だろう。雪村がそれほど評価されている時代ではなかったが、和久はポンと金を都合してくれたという。

《米界の隻脚将軍、和久伊兵衛商店に、二人の見習店員が居た。年上を平次郎と云ひ、弟分を栄之助と云つて何れ劣らぬ元気者であつた。平次郎サンは東京米界の長老谷崎久兵衛氏の長男で、現今文壇の驍将谷崎潤一郎、同精二サンの兄さんである。栄之助サンは伊勢桑名米穀取引所理事長として令名のあつた名流下里家の御曹子だつた。後年見込まれて和久家の養子となり、乃父の業務を継承し豪快不覊で、成金神吉と鎬を削る闘士となつた。》

文中、谷崎平次郎は谷崎兄弟の兄ではなく従兄である(谷崎潤一郎詳細年譜)。そんな羽振りの良かった栄之助もその三年後に没落して九州有田へ隠棲したという。

もうひとつ。字矢満門(ペンネームでしょうねえ)「頭巾を脱ぐ」に京都の「にしんそば」が登場している。四条南座の隣の店(「総本家にしんそば松葉」のことか)。

《久しく京に居た人々に云つて見ましても知つて居る人は少い様です。
「にしんそば」は普通のそばに干した、にしんの長い奴を其侭、大概二本づゝ入れてあるのです。つまり一疋のにしんを一杯のそばに入れて喰はせるのです。上の方と尾の方がお鉢の縁を越へて朽ちた砲身の様に「ニユツ」と突き出て居る様はあまり見て好いものでは御座いません。》

などと書いてある。「にしんそば」はそもそも明治中期に始まったようで、字矢満門の書き振りからすれば《京の代表的な味として親しまれてきました》(松葉HP)のは戦後のことのようだ(?)。

http://www.hotpepper.jp/A_20100/strJ000108430.html

いろいろ楽しめて、もちろん百円。
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by sumus_co | 2009-07-30 21:24 | あちこち古本ツアー
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