岸百艸『百艸句稿 朱泥』(岸百艸、一九七六年春)。足立巻一の序文がある。
《中学を出るころから文学と映画に熱中し、嵩じて阪妻プロダクションの脚本部にはいり、『開化異相』などを書いたりしたけれど、嫌気がさすとプイとやめた。新国劇上演の『廃刀令』や『サンデー毎日』に載った小説『草賊石川五右衛門』の作者でもあったが、いつのころからか元町通りの露路の古本屋のおやじになり、それもいまはやめて気ままに暮らしている。このことはすでに『大衆芸術の伏流』という本に書いたことがある。》《百艸さんは一見無愛想で不貞腐れているけれど、真にやさしく寂しい男なのだ。》
句は悪くないが、とくに称揚するほどでもない。いくつか引いてみる。
うつくしき嘘を愉しみメロン喰む
元町の凍の煉瓦は研がれおり
昔ながらの居留地の夏や洋犬(かめ)曳きて
詩を語るかたみに寒き影を踏み
おとこありけり日にけにつぎて菊を買う
巻末「後記」にいわく《昭和二十一年かぎり句筆を折って陋巷に隠れること二十年いまや神戸史学会に拾われて郷土史家の末席をけがしているのは一重に落合重信氏の輓推に拠るところである。/時も時昭和四十九年頃から男女十二三人の知人が相寄って私に作句の手ほどきをしてくれとの要望があった。私は二十年間の空白があり内心忸怩たるものがあったが遂に動かされて一年有半再度の褄がさねをよぎなくされた。》
何部制作されたのか、署名入りのうえに本文にあちらこちら誤植訂正、ルビ、改稿が施されている。まったく偶然に「日本の古本屋」でヒットしたのだが、こんなものがに出ているとは思いもしなかった。
この後、神戸市立中央図書館にまったく同じ題名の句集が所蔵されていることに気づいた。
書名 朱泥 : 百草句稿||シュデイ : ヒャクソウ クコウ
著者 岸百草||キシ ヒャクソウ
出版 神戸 : 岸百草 , 昭和36年10月
大きさ 203p ; 21cm
昭和三十六年にも出していたのか。小生架蔵本の頁数は173である。