『復式スピン製造案内』と題されたパンフレット。これも口笛文庫で。表紙と製造機械の写真、そして挟まれていた実物見本。発行および製造販売は三菱洋行という会社名義になっているが、三菱財閥とは関係ないようだ(中に「私の履歴」という自伝が掲載されている、ただし「私」の名前さえ分からない)。こんなものまで買ってはいかんと、一旦、戻したが、よく考えると「しおりひも」を「スピン」ということと関係があるのではないかとハッとして思い直した。
しおりひも(栞紐)のことを英語では「ribbon bookmark(bookmark ribbon)」または単に「ribbon」あるいは「tassel」(房飾り状のもの)と呼ぶ。フランス語では「signet」。ドイツ語では「Lesebändchen」。「スピン」という単語を「しおりひも」の意味では使わない。どうして日本だけが今もって「スピン」という単語を使っているのだろうか。これは誰しも一度は疑問に思うこと。ちなみに『出版事典』(出版ニュース社、一九七一年)は「スピン」をこう説明している。全文。
《スピン spin 読みかけのページに挿んで目印にするためにつけた紐(ひも)。→しおり》
語源説明もなにもなし。そしてその語源のヒントがこの『復式スピン製造案内』の文言のなかに見えている。
《スピンとは一名真田紐或は平編紐とも云ふ貿易としては諸外国でスピンと云ふ名称で有ります》
刊行年が書かれていないので時代がはっきりしない。とにかく、諸外国で「スピン」と呼ぶのだと明記してある。これをどう考えるか。英語の spin は「紡ぐ」「回転する」あるいはその名詞形。あるいは spin ではなく spindle と関係があるのかもしれない。スピンドルは綿糸や麻糸を紡ぐ「紡錘」のこと。また、そこからそれらの糸の長さの単位ともなっている。本当に貿易関係に「スピン」と呼んでいた時代なり業界用語なりがあったのか、「スピンドル」等を縮めただけかもしれないし、または別の誤解があったのかもしれない。
そこまでは不明だとしても、とにかく「スピン」という言葉が「真田紐」を意味する和製外国語として使われ始めたことをこのパンフレットが証明してくれたように思う。そしてその呼び方が製本業界でも使用されてそのまま受け継がれたに違いない。
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予想通り将棋名人戦は冴えていたはずの郷田の第六、七局の戦い方が納得できないまま羽生名人の防衛となった。これが羽生の強さか。
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早めの夏休み。明日から一週間ほど休みます。