『掌中和漢年代記集成』(文江堂、文化三年=1806)。江戸時代のポケット事典。大日本略図、大清略図、歴代皇帝天皇リスト、年号と干支、武将の略伝、暦日略解、男女相性、婦人の妊娠中の胎児の図解、忌日数、五行図式、月の満ち欠け、日蝕月蝕、天動説の図解、江戸年中行事などなど、こまごまと書き込まれている。江戸の人々の生活、知っておかなければならないことが詰まっているといった感じ。
そのなかで上の写真は「諸商人通用賦帳集」の頁、数字のふちょう集である。「書物」の欄があったので目にとまった。今では古本屋もほとんど使っていないだろうが、昔の本には意味不明の符牒が記されていることがある。
書物(志よもつ)
一二三四五六七八九十
ヲコソトノホモヨロオ
このほか家々数多し
古本屋の符牒については猪狩春雄『返品のない月曜日』(筑摩書房、一九八五年)に上記とほぼ同じものが示されていた。「お」と「を」が入れ違っているが。
一二三四五六七八九十
おこそとのほもよろを
あるいは山辺健太郎『社会主義運動半生記』(岩波新書)、大正八年、丸善の大阪店に勤めていたころの回想にも符牒が登場している。江戸時代と基本的に同じである。
《本の値段は表紙のすみに小さく符号で書いてありました。たとえばアンカナというのは一円二五銭です》《アカサタナフマヤラワを一から一〇までの数字にわりあてたもので、六字目がハとなっていないところがミソでしょう》
また、今、ふと気づいたが、青物のところに「ロンジ」とある。これは夏目漱石の「硝子戸の中」にやっちゃばの見学をするくだりに出ている。
《ろんじだのがれんだのといふ符徴を罵しるやうに呼び上げるうちに、薑や茄子や唐茄子の篭が、夫等の節太の手で、どしどし何処かへ運び去られる》
ついでに織田作之助の「競馬」からオイチョカブ賭博での数字の呼び方。
インケツ、ニゾ、サンタ、シスン、ゴケ、ロッポー、ナキネ、オイチョ、カブ
もひとつ、バンドやってた人なら知っているだろうミュージシャンの使う符牒。奥田民生に「イージューライダー」という曲があるが、「イージュー」は三十のこと(三十歳のときの曲だったはず)。音階記号のドイツ語読み。
1234567
CDEFGAH(B)
ツェー、デー、エー(イー)、エフ、ゲー、アー、ハー(もしくはベー)
8はオクターブ、9と10(ジュー)は日本語らしい。