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澤『澤』100号(澤俳句会、二〇〇八年七月一日、表紙デザイン=山口信博・大野あかり)を KYO さんより頂戴した。先日の『リテレール』の御礼を送るとまた送られて来た。感謝感謝です。 『澤』は小澤實を中心とした結社誌、八周年百号記念として二〇〇四年に歿した田中裕明を特集している。異例の厚冊。束(つか)二十七ミリ。『澤』は間村俊一さんの仕事場で初めて知り、つい先日も京都の古書店で77号を100円で買ったばかりだったので、奇遇に驚く。 《田中裕明さんという夭折した俳人の句が好きなのですが、林桂さんの評論集『俳句彼岸'04~'08』(風の花冠文庫、鬣の会、2009)を著者より送られ読んだところ、小澤實さんが主宰されている「澤 俳句会」の機関誌「澤」の通卷100号が昨年7月に発行され、その特集が田中裕明であることを教えられました。総426頁の内、実に236頁が特集に割かれているとのことでしたので、どうしてもほしくなり、「澤 俳句会」に申込んだところ、入手することができました。田中裕明さんの第1句集『山信』は限定10部発行の私家版で到底入手することはできません(内容は既刊の全句集などで読めます)が、なんとその私家版の(田中裕明の自筆墨書)の復刻まで収められている、将に驚きの一冊でした。》 この後も KYO さんは田中裕明夫人の発行している個人誌『静かな場所』の1〜3号を入手し、さらにそれまで影も形も見ることができないでいた田中裕明編『数』(蝸牛社、一九九〇年)と田中裕明・森賀まり共著『癒しの一句』(ふらんす堂、二〇〇〇年)を立て続けに落掌されたというから、文字通りの本が本を呼ぶ超常現象(?)に見舞われたようである。 略歴によれば田中裕明は一九五九年生れ。ということは享年四十五。大阪生れで京大工学部から村田製作所に入社している。京都ゆかりの人。十八で波多野爽波の『青』に入会し二十三のときに角川俳句賞を受けた。ざっと読んだ感じでは晩年に向ってどんどん良くなっている。本に関する作を拾ってみた。 辞書入れて露の鞄といふべしや 『櫻姫譚』 月今宵いまも活字を拾ふ人 『夜の客人』 秋深き手に古りて本あたたかく 『夜の客人』以後 まだよまぬ詩おほしと霜にめざめけり 『夜の客人』以後 詩を売つて本買ひにけり年の暮 『夜の客人』以後 最後にもう一句 よき友はものくるる友草紅葉 『先生からの手紙』 ÷ もうひとつ貰い物『季刊遊心』6号(古書 duckbill、二〇〇九年五月五日)。これは以前も紹介したが、目録よりも記事の頁が多い古書目録。今回は木村紀子「常識・教養のはかなさ」。平安時代の『口遊』(クチズサミ、クユウ、成立九七〇年)という当時の貴族男性に向けての基本常識を説いた書物について。そこに指南されている読むべき本はほとんど全て漢籍すなわち中国の本であり、冒頭に並べられている覚えておくべき皇帝や聖人の名前はすべて中国人という中華思想に染まった一冊。平安のインテリは中国通でなければならなかった。それが鎌倉になってガラリと変り、公家の漢才(からざえ)が過去のものとなってしまう。『愚管抄』で慈円がカタカナ漢字混じり文を使うことについてくどくどと弁明するしまつ。これは絵画においては「源氏物語絵巻」から「一遍聖絵」への変化に喩えられる。後者にはなんと乞食ばかり描かれていることか。その風景は現代の都市公園の風景に重なる……という結論ふうのオチには賛成しがたいけれど、面白く読んだ。
by sumus_co
| 2009-05-16 21:11
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