麻生三郎『イタリア紀行』(越後屋書房、一九四三年)。麻生三郎と言えば、古本好きなら『帖面』(帖面舎)の表紙だろうし、松本竣介、船越保武(船越桂の父)といっしょに写っている写真もよく知られている。回顧展も何度かあった。
じつは小生、武蔵美時代に麻生の教えを受けた。たしか当時の武蔵美は三、四年になると担任というものがなく、数名の教授・講師が交替で絵を見に来るシステムだった。森芳雄と麻生三郎が二大巨匠という感じで、直接指導を受けたなかには他に、中間冊夫、斎藤長三、須田寿、根岸正、松樹路人、桜井寛らの先生たちがいたと思う(授業以外では先生方とまったくつき合いがなかったのでよく知らない)。森先生は気が向いた生徒の絵にはどんどん手を入れていた。麻生先生は言葉少ない人だったが、たしかボロクソに貶されたような気もする。「こんふうに描く意味が分からない」とかなんとか。
東京都の美術館で開催された回顧展は見たはずなのだが、この本の表紙になっているような風景画はまったく記憶になかった。ふつうの写実的な作品は、せいぜい、皿を舐める自画像とか女性像ていどしか思い出せない。図録は今手許にないし。ということで、このパリの街景はかなり意外で、かつ新鮮に映った。挿絵として多数収められているデッサンもいいし、文章もしっかりしている。師匠再発見。四天王寺にて、百円ではなかったが、安かった。