『Bibliophil 詩歌文芸書目録』8号、9号(中村書店)。渋谷区上通一の一四(宮益坂上)にあった詩書で知られた古書店の目録である。デイリースムースでも二度ほど触れた。
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天神さんの百円均一で買ったもの。他にもたくさん出ていたが、百円払うほどの目録はそうはなかった。これは別格。
発行年が記されていないが、手がかりは8号の巻末に載っている昭森社の広告。
《唯一高級書物月刊誌 本の手帳[ママ] 一八〇》
『本の手帖』を揃えている方に正確に教えていただきたいが、小生架蔵分では、一九六一年の創刊号は一五〇円、六二年が一六〇円、六四年が二〇〇円なので、六三年あたりかと推測する。
上掲の目録頁は8号のもの。いやあ、安い! 当り前だ、四十五年も前の値段だもの。ただしコーヒーは八十円だったから、単純に五分の一かというと、そうではない。詩集はコーヒーよりもずっと値上がりしている。この四月二日から神戸のサンボーホールで開かれる「ひょうご大古本市」の目録に街の草さんが『青い夜道』を出しているが、それが 63,000。四十五倍。ボン書店の『貝殻の墓』も日本の古本屋では七万円程度で出品されているから、百十倍以上ということになる(これは『ボン書店の幻』効果だろう)。『象牙海岸』は値段の幅があるにしても並の状態なら二万円ていどはするだろうから七十倍。150〜350 という値段は、竹中郁の評価が低かったことを感じさせる。
そんなところへ『彷書月刊』4月号が届いた。「飜訳鑑」という特集だ。巻頭は入沢康夫氏のインタビュー。詩人、フランス文学者。そこにこんな発言があった。
《ネルヴァル、エリオット以外の愛読書ですか。一冊は、ヨアヒム・リンゲルナッツの『運河の岸邊』(板倉鞆音訳、昭和十六年、第一書房)です。板倉訳のリンゲルナッツは、比較的近年になって国書刊行会からも出されましたが、他に類を見ない飜訳の傑作だと思います。「80円」と鉛筆書きがありますね。この本は、高校生か大学生に成り立てのころに古本屋で買ったものです。ずいぶんボロボロになってしまいました。いまだに愛読していますし、ぼくはあまり本を大事にしないから(笑)。どこの古本屋でしたか。たぶん、渋谷の中村書店じゃなかったでしょうか。》
入沢氏は一九三一年生れ。十八歳は一九四九年、この年に中村書店は開店した。『運河の岸邊』を八十円で売っていたとして、十五年経った『Bibliophil』8号には三五〇円、9号には四五〇円で載っている。現在は……残念ながら日本の古本屋にも見あたらない。先日紹介した『木造の記念碑1』(板倉鞆音訳、国文社、一九五八年、装幀=蛭間重夫)は二三〇円、定価が二五〇円だから、値引き販売のレベルだった。こちらも今のところ見あたらない。
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