小島政二郎『嘘の店』(月曜書房、一九四七年、装幀=宮田重雄)。円頓寺の一箱古本市にて。猫飛横丁さんの箱というか篭のなかから。岡崎氏が取り上げて元にもどしたのが気になって手にとってみると、値段が書かれていなかった。味のある風貌のご主人に尋ねた。
「八百円だね」
と言われて
「ええ〜、もう少しなんとかなりませんか?」
といつになく食い下がったところ。
「東京から来てくれたから六百円にしとこ」
東京じゃないんです、とは言わず、まだ高いなあと思いつつも、まあいいかと千円札を出したら、おつり五百円くれた。ありがとうございます。
『嘘の店』という書名は、アナトール・フランスの「私は嘘の店を開く。私は人を宥めたり慰めたりする。嘘なしに、人を宥めたり慰めたり出来るだらうか」という言葉から取ったと扉の次の遊び紙に記されている。これは小島政二郎のエッセイ集で、実際にフランスの言葉が何度も引用されていて、小島が仏英文学をよく読んでおり、とくにフランスに傾倒していたことが分かる内容だ。
引用の原文を探したが、出典が明記されていないので、すぐに見つけるというわけにはいかなかった。ただ『花の人生 La Vie en fleur』のなかに《Je le répète : j'aime la vérité. Je crois que l'humanité en a besoin ; mais certes elle a bien plus grand besoin encore du mensonge, qui la flatte, la console, lui donne des espérances infinies. Sans le mensonge, elle périrait de désespoir et d'ennui.
》とあるのはよく知られているようだ。最後のところは「嘘がなければ、絶望と退屈で人は死んでしまうだろう」。
表紙の絵はブルターニュのカンペー(Quimper, または Kemper)の民芸品で、本の形をした陶製のかぎ煙草入れらしい。雄鶏の絵に「雄鶏が鳴くときには私の恋はおわるだろう」ということわざ(?)が添えられるのが定番らしい。宮田重雄のコレクションかもしれない。下記サイトに参考例あり。
http://www.the-forum.com/pottery/quimper1.htm
「永井荷風先生」という一篇がとてもよく書けていて、荷風の弟子になりたいと思って家にまで押し掛けながら、いつもすれ違いという、遠目で見ているだけの青春の一途さ、ファン心理が痛いほど伝わってくる。小島の真骨頂はこういう文章にある。いい買物だった。