メトロのセーブル・ルクールブ駅に近いアヴェニュー・サックスの市場へ。食品や衣料品が中心で古本やブロカントはなかった。妻がコットンの白いベッドカバーに目をとめて女店主とやりとりしたが、大きなサイズしかなかった。小さくないと持ち帰れないし、買えないということで、諦めて他の店へ移動した。
すると、しばらくして女店主が息を切らしながら追いかけてきて、「小さいのあったよ」と引き戻された。見てみると、縫い取り模様は同じだったが、微妙に白の色が違っていた。「ちょっと違うんじゃない」「同じ、同じ、手作りだからね」と押し問答。結局、言い値の二割引にしてもらって手を打った。おそらく品はいいのだろうが、流通には乗せられない小難アリ商品ばかりを安く引き取って、市場で売りさばいているのだろう(どこかの陶器市みたいに)。
アヴェニュー・サックス近くで見かけた小さな図書館。
昼食後、ブランリー河岸の
ケ・ブランリー美術館(Musée du quai Branly)へ。「逆さまーー北極の品々(Upside Down - Les Arctiques)」が見たかったのだ。同時に「民芸(Mingei)」という特別展もやっていたので、さっと回っておく。民芸も一時好きだった。ただ、今はもうどうでもいい感じになっていたのだが、パリで見るとまた多少印象も違ってくるから面白い。
気候の温暖化(un réchauffement climatique)についての議論がかしいましいのはフランスも同じ。そういう時期に北極圏の美術(考古物に近いもの)を紀元前から近年まで通覧しようという試み。とは言っても展示物はごく小さな骨や石や木でできた彫刻(これは多数展示されていた)と装飾的な仮面が主なもので、そう幅広くかき集めたものではなかった。
しかし、小指の先ほどの大きさの彫刻は、これまで目にしたことがないような特異な造形や装飾のセンスに貫かれていた。非常に鋭い観察と圧縮された表現が卓抜である。これには感激した。アンドレ・ブルトンなら飛びつきそうだ(ブルトンのコレクションの一部もこの美術館に収蔵されている)。いくつかは日本のアイヌの造型物やあるいは縄文時代の土偶、面などとの類似を見てとれる。上の人形は七〜八世紀頃の象牙製、高さ16センチほどで、大きい方だ。
「逆さま(Upside Down = sens dessus dessous)」のタイトルは、歓迎のダンスで踊り手が頭を下にして、北極圏固有の目印の喪失(垂直性の喪失)と、裏側に先祖が住むとされる地下の世界を示す、というところから取られたようである。
常設のコレクション展示もざっと見て回ったものの、課外授業の学生(小学生から高校生まで)が多くて落ち着かなかった。非常に質の高いアボリジニーの絵画が展示されていて感嘆した。全体に粒選りの品々で、量より質の展示だった(とは言ってもそうとうな広さ)。
ミュージアム・ショップ(下の写真の右側、左が本館の入口)はもうひとつか。とくに販売用の民芸品はレベルが低い。アフリカ関係のCDでも買おうかと思ったが、これも迷って絞り切れずに断念。けっこう古本に消費したのでケチケチ・モードに入っていた。