林蘊蓄斎の文画な日々
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フランスバア

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某氏よりコピーを頂戴した。中田政三『カフエーの営業政策と新興建築』(新興カフエー研究協会、一九三四年)より、大阪堺筋の「フランスバア」。基本設計はル・コルビュジェだというから驚く。写真のキャプションを拾ってみると以下のようなことが記されている。

《仏蘭西新興建築の権威ル・コルビュジェ氏純粋還元派の設計、インターナショナル建築協会工学博士中尾保氏、同協会酒井清一氏と著者の合作。

ガーデンの花弁が硝子張りの軟かい感覚を通して視られる所に芸術フランスを表徴するものとして紳士よりも淑女に喜ばれるガーデンルーム。

造花的の装飾と飾額などを廃して熱帯植物と洋酒ポスターを採り入れた新感覚は正に新興芸術の精神を汲み入れたものとして推奨せらる。

軽快にして純白なエナメルに新鮮なる植物を配したところはまさに「新興美術建築」として芸術的な価値を認識せられた。

サロンを書斎風にしつらえたところに最も新しい感覚が窺はれるものとして好評を博す。

特にスクリーンを以て書斎的なボツクスをしつらへ加ふるにスポーツ的なネットを採用するなどすべて新感覚を出してゐるのが特徴である。

チーク材に純白のエナメルを塗り金具は全部ニツケルを用ひ玻璃も全部純白の磨硝子を用ひて之に光を透して調和したる処に同派の特徴がある。

断裁的なところが同派の特徴。》

文中「インターナショナル建築協会」は「インターナショナル建築会」が正しいようで、一九二六年にウィーンから帰朝した上野伊三郎が妻リチとともに京都市上京区竹屋町に「上野建築事務所」を開設。同会は上野と早稲田大学時代に同期であった大阪在住の建築家・中西六郎や中尾保、大阪市の技師で上野の先輩だった伊藤正文、そして京都高等工芸学校図案科教授・本野精吾らと一九二七年七月二日に設立された。当初の同人は、上野伊三郎、本野精吾、石本喜久治、中尾保、伊藤正文、新名種夫の六名。

《これは京都のみならず、関西の地から、広く国内外に発信されたはじめての建築運動として注目すべきものでした。上野伊三郎の海外でのネットワークも駆使して、外国会員にブルーノ・タウトやE.メンデルゾーン、J.ホフマン、P.ベーレンス、W.グロピウスなどを加え、1929年8月に機関誌『インターナショナル建築』を創刊します。》(京都国立近代美術館のHPより)

ということで設計をコルビュジェに委嘱したのであろうか。酒井清一については不詳。中田政三についてもあまりよく分からない。「インターナショナル」という命名が、彼らの気概はともかくとして、いかにもローカルな感じをもよおさせるのが面白い。

文学の世界でも、横光利一らの「新感覚」とか「純粋」小説といった言葉や志向はこれらの建築やインテリア造型の流行(ピュリスムと呼ばれたりするが)と深くあるいは浅く関わっている。佐野繁次郎の昭和初期の画風もまさにこの調子であろう。
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by sumus_co | 2011-07-31 19:55 | 喫茶店の時代

ヒーローズ

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by sumus_co | 2011-07-31 14:30 | 写真日乗

柚味噌

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少し前に「柚味噌(ゆうみそ)」の看板(北大路魯山人作)の写真をのせると書いた気がするが、なかなか果たせなくて、本日、京都タワーから引き返して烏丸御池で降り、京都文化博物館へ向かう途中で撮影することができた。と思ったら、店の外にあるのはレプリカだそうだ。風雨に晒され風格の出たレプリカではある。

シュヴァンクマイエル展はまあまあ。シュルレアリスム直系のコラージュが中心だが、エルンストと較べると紙の切り方にやや繊細さを欠く。マグリットを思わせる立体コラージュの方が良かった。外へ出たところでE氏にばったり、やはりシュヴァ展へ来られたとのこと。
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by sumus_co | 2011-07-30 18:09 | 京のお茶漬け

京都タワー 夜ふかし市

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昼から夜ふかし市をのぞいた。京都タワーのビル、最近入った覚えがない。ずっとずっと前には入ったこともあったような気はするが。標識などがレトロな感じ。四階のフロアを使ってさまざまな品物(手作りのオリジナル商品が多かった)を売っている。OLD PAPER Pie In The Skyの店であれこれと楽しんだ。

・夜ふかし市 VOL.5

とき:7月30日(土) 12時〜19時
ところ:京都タワー4階

詳しくはコチラで。http://100000t.blog24.fc2.com/blog-entry-1072.html
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by sumus_co | 2011-07-30 11:10 | 京のお茶漬け

小銭をかぞえる

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西村賢太『小銭をかぞえる』(文藝春秋、二〇〇八年九月二五日、装画=森田朋、装丁=関口聖司)と『二度はゆけぬ町の地図』(角川書店、二〇〇七年一〇月三一日、装丁=天野昌樹)を一気に読んでしまった。みょうに爽快な作品群である。『どうで死ぬ身の一踊り』はかつて二度ほど言及して絶賛したことがある。

滴滴と滑りゆくもの梅雨寒し
http://sumus.exblog.jp/5306975

測鉛を深深闇へ薔薇にほふ
http://sumus.exblog.jp/4936523

破滅型などと言われているようだが、まったく破滅なんかしていない。ただの小心者である。そこを強調しているところにうまさがある。国会で検索してみると以下のような著作があるようだ。早くここに『藤澤清造全集』が加わるように祈っている。

1.一私小説書きの弁 / 西村賢太. -- 新潮社, 2011.5. -- (新潮文庫 ; に-23-3)
2.廃疾かかえて / 西村賢太. -- 新潮社, 2011.5. -- (新潮文庫 ; に-23-2)
3.小銭をかぞえる / 西村賢太. -- 文藝春秋, 2011.3. -- (文春文庫 ; に18-1)
4.苦役列車 / 西村賢太. -- 新潮社, 2011.1
5.二度はゆけぬ町の地図 / 西村賢太. -- 角川書店, 2010.10. -- (角川文庫 ; 16500)
6.東と西. 2 / 西村賢太,他. -- 小学館, 2010.7
7.人もいない春 / 西村賢太. -- 角川書店, 2010.6
8.暗渠の宿 / 西村賢太. -- 新潮社, 2010.2. -- (新潮文庫 ; に-23-1)
9.一私小説書きの弁 / 西村賢太. -- 講談社, 2010.1
10.ひと粒の宇宙 / 石田衣良. -- 角川書店, 2009.11. -- (角川文庫 ; 15983)
11.瘡瘢旅行 / 西村賢太. -- 講談社, 2009.8
12.文学. 2009 / 日本文藝家協会. -- 講談社, 2009.4
13.どうで死ぬ身の一踊り / 西村賢太. -- 講談社, 2009.1. -- (講談社文庫 ; に33-1)
14.小銭をかぞえる / 西村賢太. -- 文藝春秋, 2008.9
15.二度はゆけぬ町の地図 / 西村賢太. -- 角川書店, 2007.10
16.暗渠の宿 / 西村賢太. -- 新潮社, 2006.12
17.極上掌篇小説 / 西村賢太,他. -- 角川書店, 2006.10
18.文学. 2006 / 日本文藝家協会. -- 講談社, 2006.4
19.どうで死ぬ身の一踊り / 西村賢太. -- 講談社, 2006.1
20.田中英光私研究. 第8輯 / 西村賢太. -- 西村賢太, 1996.11
21.田中英光私研究. 第7輯 / 西村賢太. -- 西村賢太, 1995.11
22.田中英光私研究. 第6輯 / 西村賢太. -- 西村賢太, 1995.1
23.田中英光私研究. 第2輯 / 西村賢太. -- 〔西村賢太〕, 1994.4
24.田中英光私研究. 第1輯 / 西村賢太. -- 西村賢太, 1994.1

古本者には『小銭をかぞえる』所収の「焼却炉行き赤ん坊」(あざといタイトルだ)が身につまされる。パラフィン掛けの登場する小説もちょっと珍しいだろう。筋立ての眼目は『藤澤清造全集』の印刷費が滞り、なんとかそれを工面しようと主人公があがく、そのあがき様。まずは誰でもやる金策、書棚から金になりそうな古書を抜いて旧知のA書林に持ち込むことから始まる。大いに悩んで選び出した書物は以下のごとし。

 川崎長太郎『路草』文座書林、一九三四年、限定八百五十部
 江戸川乱歩『探偵小説三十年』岩谷書店、一九五四年、大坪砂男の漢詩と署名入り
 大坪砂男『私刑』岩谷書店、一九四九年
 大坪砂男『愉快な悪人』桃源社、一九五八年
 大坪砂男『閑雅な殺人』東方社、一九五五年
 『生田長江全集』五冊、大東出版社、一九三六年

A書林主・新川の描き方に容赦がないが、とりあえず本を見せて値踏みするところを引用してみる。

《アタッシュケースから、かの書籍を取りだして机の上に並べてみせると、新川はそれらをざっと眺め、
「状態が悪すぎるな……いかにも足で安く集めたって感じが強いし、今、長江なんかを買う研究者はいないよ。これじゃ、いくらにもならないぞ」
「そうかなあ……ぼくはこの長江で二万、大坪一括で五万、それにこっちの『路草』で八万の、しめて十五万円にはなることを計算していたんですがね」
「いや、そんなにはならない。せいぜいが全部で四、五万といったところだろうな。もっともこっちの大坪は、もしかしたらもう少し化けるかもしれないけれど……だったら、これまとめてあさっての、金曜の市に出した方がいいんじゃないのか」
 神田では、毎週金曜日に近代文学書を中心とした市がひらかれていたが、これには当然かのジャンルを専門とした、古書組合の加入業者が通常よりも多く集まってくるので、自然と他の曜日の市よりは高値で処分することも期待できるわけである。》

古書店主の出自も記されている。神保町に限ったことでもなく、古書業界に限ったことでもないだろうが、縁故をたよって上京してきた地方出身者が少なくないようにも思う。

《福島の浜通り出身で、言葉に訛りの取りきれぬ新川は、高校卒業後に母方の叔父である神保町の古書店に勤めながら夜間大学に通い、三十歳目前で独立して自ら古書肆を開業したときには、すでに三人の子供の親となっていた。》

さて、これらの本がどうなったか……は本書を読んでいただこう。面白いが、たわいもない。たわいないのも小説の醍醐味である。

  *
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by sumus_co | 2011-07-29 20:52 | 古書日録

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古賀春江「海」絵葉書。一九二九年秋の第十六回二科美術展覧会出品。神田美土代町一ノ四四美術工芸会発行。

古賀の代表作として知られる作品。ここに描かれている図柄については速水豊『シュルレアリスム絵画と日本』(NHKブックス、二〇〇九年)が詳しく分析してくれているので、主なところを引用してみる。

画面左手の建物の下部、内部図解のような部分についてこう書く。

《平面化された機械的形象に関しては、その影響源をピカビアに限る必要はないであろう。この当時、古賀が確実に見ることができた一例として、カレル・チャペックの戯曲『R・U・Rーロッスムのユニヴァーサル・ロボット』のためのフレデリック・キースラーが制作した舞台装置を挙げることができる。》

コラージュ的な手法については

《モホイ=ナジの作品が具象的なモチィーフを抽象的な図形と組み合わせている点においても、古賀のこの種の作品との類似性を指摘できよう。
 モホイ=ナジの形成写真は、この古賀の絵画が描かれる数年前から紹介されており、これを日本に広めるきっかけとなったのはモホイ=ナジ自身の一九二五年の著書『絵画・写真・映画』である。》

これは仲田定之助『現代商業美術全集第一四巻 写真及漫画応用広告集』に紹介されており、直接的にはそこから古賀が影響を受けたと考える方が妥当であろうという。また古賀と親交のあった坂宗一の回想によってコラージュ的な手法を採用していたことを裏付け、そのソースを特定する。

《子供の化学という薄っペラな雑誌を古本屋の店先で買い集めるのだが、その仕事が彼の仕事にどう役立つかは知らなかったが、古賀さんはこの中から関連なく写真や絵図を切り取って組み合わせることで、一枚の主張をもった作品を創った。これをモンタージュというのだと後になって教えてくれた。》(坂宗一「サーカスの景」)

映画や写真の世界で用いられるモンタージュ(montage)は「はめ込み」という意味。そして速水氏は「飛行船」および「鉄塔」を『科学画報』一九二八年一二月号の八四六頁、「潜水艦」を同誌一九二八年五月号の九〇〇頁、海上に浮かぶ「帆船」を同誌一九二八年五月号の八六七頁、「工場」のような建物を『科学知識』一九二七年一二月号の五五頁に掲載されている写真からそれぞれ取ったと具体的に図版を掲出して指摘しているが、なるほど、これはその通りと納得するほかない。

そして水着女性のイメージである。これはかつてテレビ番組でドイツのグラフ雑誌にのっている女性にそっくりだと指摘され、その番組を見た人が同じ絵柄の絵葉書(「原色写真新刊西洋美人スタイル第九集」青海堂、の中の一枚)があることを知らせてきたという。

速水氏はひとつの結論としてこう書いている。

《グラビア・ページの斬新なレイアウトの出現が、まさに《海》という作品の制作と同時代の出来事であることに注意すべきである。これら同時代のイメージが示す、社会における新たな視覚文化の編成に、古賀の絵画作品は積極的な関わりを持っていたことを推測させる。》

最近の美術界に引き付けて見れば、村上隆や会田誠の仕事にも当てはまるかも知れない。

この絵葉書は二科の出品作六枚セット、袋(「二科美術展覧会出品絵葉書/場内売店」と印字あり)も付いて千五百円だった。セットといっても買った人が適当に選んだもののようだ。個人的な興味として鍋井克之の未所持の絵葉書がまじっていたので買うことにしたのだが、値段の面では、むろん「海」絵葉書をどのくらいに評価するかというのが問題。千五百円は高くないと見た。

そこで先日たまたま遭った生田誠さんに見せてみた。即座に「千円でしょ」とバッサリ。古賀春江の絵葉書は集めてファイルしてあるというので、さすがと感心して引き下がるしかなかったが、泣きそうになって(ウソ)「日本の古本屋」を検索すると、古賀春江絵葉書一枚で千五百円以下の出品はなかったし「海」も出ていなかった。なんたって「海」は代表作だし……ホッとして機嫌が直ったのであった。
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by sumus_co | 2011-07-28 21:33 | 古書日録

LE FIGARO, 20 AOÛT 1870

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現在刊行されているフランスの日刊紙としては最古参の『フィガロ』紙、一八七〇年八月二〇日号。明治三年。タイトルの脇には主筆H. ド・ヴィルメサン(1810-79)と大書してある。『フィガロ』は一八二六年創刊、六六年よりヴィルメサンの推進によって日刊となった。

『ゴンクールの日記』(斎藤一郎編訳、岩波文庫、二〇一〇年)上卷に二度ヴィルメサンの名前が出ている(原本では他にも出ているようだ)。最初は一八五六年五月一〇日、

《何の詩的感興もなく、フィガロ社主をやっているヴィルメッサン程度の才能すら持ち合わせぬその日暮らしの輩によって》

もう一ヶ所は一八六一年一〇月一〇日、

《連中はアレヴィーからクレミュー、クレミューからヴィルメッサン、ヴィルメッサンからオッフェンバックにいたるまで、確固たるみずからの小世界をかたちづくっている》《この種族、この連中、この新興の若者たち、この若い世代は、証券取引所の取引のあいまに、なにかどたばたのヴォードヴィル喜劇のあと産み落とされたような人たちだが、そのあとひとりでに成長し、流行歌の一節がいくらくらいになるかをもっぱら計算するまでに成長しているのだ》

一八七〇年八月二〇日と言えば、普仏戦争が始まって一月経った頃である(七月一九日開戦)。結局フランスはプロシアに手もなく捻られてしまいパリも占領されるのだが、これについては以前、当時のパリに籠城していた日本人の書いた書物を紹介したことがある。

渡六之助『法普戦争誌略』
http://sumus.exblog.jp/8961840

この『フィガロ』の冒頭ももちろん戦況報告である。八月十六日。どうやらサン・プリヴァの戦い(la Bataille de Saint Privat)と呼ばれる激闘の一部のようである。

《今朝、九時頃、フレデリック・シャルル公の率いる軍団がわれらの右翼を激しく攻撃してきた。フォルトン将軍の騎馬隊およびフロッサール将軍率いる第二軍団がもちこたえた。ルゾンヴィルで左右に等間隔に配された部隊は効果的に応戦し夜になるまで頑張った。
 敵は戦力を誇示し繰り返し攻撃を加えたが頑強に押し返した。一日の終わりに、別の一隊がわが左翼を乗越えようとした。われわれは陣地を保持して敵に反撃を加えた。
 わが方の損害は甚大である。バタイユ将軍は負傷した。槍騎兵連隊が参謀部に突撃してきたのである。二十名の護衛兵が戦線を離脱し、中隊長は戦死した。
 夕刻八時、敵は全線において押し返された。一万二千の兵士が参戦したと算定される。》

戦況はフランス不利。この後すぐにメッツ(Metz)が包囲される。

まあ、戦争の話はともかく、普仏戦争と言えば、われらがアルチュール・ランボオはこのときどうしていたのか? 人文書院版『ランボオ全集』(一九五三年)の年譜によればこんな様子だった。一八七〇年一月、ランボオ十六歳、イザンバアルという教師がシャルルヴィル中学に赴任、ランボオが文学へ没入するきっかけをつくった。

《七月二十四日。イザンバアル、ドゥエ市にゐる三人の伯母ヂャンドル Gindre 一家に招かれ、友人ドヴェリエールと共に休暇をすごしにドゥエに行く。ランボオ、この出発を聞いて悲嘆にくれ、イザンバアル不在中のシャルルヴィルの生活の倦怠を思ひ、心秘かに家出の決心を固める。》

《八月二十九日。ランボオ、学校から授与された賞品を売り飛ばし、隣の駅モホン Mohon までの切符を買つてそのまゝ汽車でパリに行く。金が足らず無賃乗車のためにパリの駅で逮捕され、スパイの嫌疑をうけて一時マザス Mazas の牢に入れられる。
九月二日。セダン陥落。ナポレオン三世降伏。
九月四日。パリに革命勃発。共和制が宣布され、国防政府が設立された。
九月五日。ランボオ身許を明かし、同時にドゥエのイザンバアル宛に手紙。自分を助けてくれるやうに頼む。
九月六日。イザンバアル直ちにパリの警察に釈明の手紙を出し、同時に弁償の金を送る。
ーー数日後。戦争でパリとシャルルヴィルの間の交通が遮断されてゐたため、ランボオはドゥエのイザンバアルの許に送られる。》

とまあ、大変な目に遭っているわけだが、この後も一度イザンバアルとともにシャルルヴィルに戻りながら、またすぐに家出、最後は警察の手で母のもとに連れ戻されている。放浪癖は文学熱とともに始まったようである。
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by sumus_co | 2011-07-27 22:36 | 古書日録

ハイデガー、ヘルダーリンを読む

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『現代思想』第二十七巻第六号(青土社、一九九九年五月一五日、装幀=工藤強勝)総特集・ハイデガーの思想。

本日は小生誕生日にて四条烏丸下車、新町通仏光寺下ルの味禅(これまで何度も紹介してきた)にて美味なる蕎麦を食した。その後、ありの文庫をのぞく。しばらくぶりなので棚の本はかなり変っていて楽しめた。あまり他人に教えたくないくらい、いい本屋である。ふと見るとこのハイデガー特集がある。ちょうどハイデガーの参考書を探していたのだ。

というのは先の個展のときに某氏よりハイデガーがヘルダーリンの詩編を朗読した音源を頂戴していたからだ。ドイツ方面にはからきし弱いため、ハイデガーについては『存在と時間』挫折組であり、ヘルダーリンにいたっては名前くらいしか知らないのであるけれども、音源を聴きながら絵筆を動かしているとこの単調さが何とも言えずいい感じに「手」に響いてくるのである。もちろん何をしゃべっているのかは全く分からないのだが。

ジャック・デリダの「ハイデガーの手(ゲシュレヒトII)」という小粋な論考(講演記録)が収められている。その冒頭にハイデガーとアルトーの手についての文章が引かれている。これだけでお洒落じゃないか。

《……振る舞う(handeln)ということが存在の本質に手(Hand)を貸すことを意味するのなら、思考することはそのもっとも固有なものにおける振る舞うことである。》(ハイデガー『諸々の問い』第四卷)

《このカンヴァスに描かれた絵において大変美しく、非常に貴重なもの、それは手だ。特殊な構造をもつ、歪みのない手であって、それは火の舌[=灼熱の原語]langue de feu のごとく語りかけるようだ。》(アルトー「マリア・イスキエルドの絵」)

デリダの注意はハイデガーが繰り返し考察したヘルダーリンの『ムネーモシュネー』の有名な詩節にある「怪物」という単語に注がれる。そしてドイツ語の Zeichen が monstre と仏訳されている意味を多重に解釈し(こじつけくさい、「警戒させるために示すもの la monstre」と「怪物 le monstre」、単語の性が変ることで意味も変るが、語源は同じだという)、こうまとめる。

《われわれは記号であるーー示し、警告し、合図をおくるが、本当は無へと合図をおくる記号、隔たっている記号、記号に対する隔たりのうちにある記号であり、表示 la monstre ないしは表示作用 monstration からみずからを隔たらせる表示、すなわち、なにものも示すことのない怪物なのである。》

要するに存在の可能性の問題か? 最後の方もダジャレ連発で決めてくれるが、それはギリシャ語ドイツ語フランス語が入り乱れて紹介するにはあまりにもうっとうしいのでやめておく。意味不明の朗読を聴くことの意味の解釈にとって都合のいいところだけ切り取る。

《ハイデガーの言説に同時的に働きかけている付随的あるいは周縁的モチーフがどのようなものであれ、ロゴス中心主義と音声中心主義こそが彼の極めて持続的なある種の言説を支配している》

ロゴス中心主義と音声中心主義とは要するに「彼らが原語を作るのではなく、原語が彼らを作るのだ」ということで、発語している内容や意味など解らなくてもいいが、このハイデガーの音声こそがハイデガーを作っているということはハイデガー自身が太鼓判を押してくれているようだ。 それが本当にゲルマンのゲシュレヒトなのかどうかは知らないが。You Tube でヘルダーリンの讃歌「ライン」の朗読が聴ける。

Heidegger reads Hölderlin
http://www.youtube.com/watch?v=mN-H5aFS35Y

ハイデガーはヘルダーリンについての講義を一九三四年冬、四一年冬、四二年夏と三度行った。大学人としてのナチスへの期待(あるいは取引)が当て外れとなった時期である。モダニストだったはずの小林秀雄が実朝や古事記を読むのと同じような(比較しては叱られるかもしれないが)心境だったのかもしれない。

ところでこの『現代思想』は安かった。線引きがあちこちにあるのだ。レジで女性店主が「すみません、これ線引きが鉛筆だけやなくてマーカーでもあちこち入ってるんですけど、いいですか。私が昔使ってたんです」と言うので驚いた。驚いては失礼だったかもしれないが、帰ってよく見て行くと、たしかにけっこうキツい線引きだった。勉強家だったんだねえ。

 消しきれぬ七とせ八たび蝉しぐれ
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by sumus_co | 2011-07-26 21:26 | 古書日録

龍南物語

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上田沙丹『五高生活 龍南物語』(稲本報徳会、一九三九年九月一〇日七版、一九一八年六月一日初版、装幀=山田隆憲)。熊本、旧制第五高等学校の明治末から大正初め頃にかけての学生生活を描いたエッセイ集。著者上田吉郎の写真と略歴が巻頭口絵に載っているので少し省略して引用しておく。二十七歳という早逝である。

 明治二十六年十一月三日 鹿本郡山東村ニ出生。牧野喜久太三男
 明治四十年九月 熊本地方幼年学校入学
 明治四十三年九月 東京順天中学入学
 明治四十四年四月 熊本県立中学済々黌転学
 明治四十五年四月 熊本県立八代中学転学。同二年卒業
 (上田仙太郎養子トナル)
 大正二年九月 第五高等学校独法科入学。同五年卒業
 大正五年九月 東京帝国大学独法科入学。同八年卒業
 大正八年八月 大正日日新聞社入社。同十一月上海特派員トシテ派遣
 大正九年七月十日 於上海客死

龍南(りゅうなん)は五高の異称で龍田山の南に位置したからという。校友会雑誌も『龍南』(初め『龍南会雑誌』)と言い、例えば大正十年四月(旧制高等学校は大正八年より四月入学)に五高文科甲類に入学した上林暁が『龍南』の懸賞創作に応募した「岐阜提燈」は三等に入選した。
 
本書の「牛飲馬食の機関」と題された一編には「水谷」というカフェーが登場している。

《「いろは」は肉屋、「東京庵」は蕎麦屋、水谷はカフエーの名で三四郎が此上もない鬱憤の晴らし場である。学校内にも大きな娯楽室があつて何でも売つてゐるけれども、肝心な液体がない。それで一寸昼食の用を足す位なものに過ぎぬ。》

《各学校の教育家を網羅して組織された学生保護会なるものゝ指金でいろんな取締規則が出る。学生を上げた料理屋や、学生にお酌をした飲食店の女には、手厳しい制裁が申渡されてあるが、そんなものは当にならぬ。サーベルの威厳もそんな処まで行き届くべき筈はない。》

《嫌ですよ、灰殻角帽の医学生、
 私の好きは、龍田五高の白三筋
 破れ袴に杉の下駄、
 剛毅朴訥ありのまま。

と媚びを湛へて唄つても、紅灯の家はいつの間にか自滅して行き、
「試験前ですばい。どぎやん(どんなに)云ひなはつても今夜は一杯も飲ませんばい。」
「おのれ糞老婆!! 飲ませ。」
「糞老婆といはれても飲ませまつせん。早う戻つて勉強しなはりまつせ。」
と苦言を吐くカフエーは日一日と繁栄して行くのである。
 カフエー水谷は通町にある。正直で親切な婆さんの余徳はその名得意のトンカツよりも高く、初更から三更まで蛮歌蛮声絶えたことはない。勇将の下に弱卒なしで給仕女でも男乎女乎族の錚々たるものである。偶々新らしい色白い奴がくると抗議が出る。
「婆ァ、彼の今度きた奴は駄目だぞ。乃公に色目つかつたよ。」
 彼女は直にお暇を頂戴いたす。水谷の主人の気象を誰かが新聞で青竹を割つたやうだと書いた。それ以来、水谷に行くことを青竹を割ると云ふやうになつた。特に懸けで飲むとき然り。
「婆ァ、今晩も青竹割るんだよ。」
「はい。」》

上林暁も水谷に出かけた口だろうか? なお未成年者飲酒禁止法は大正十一年制定という。

  *

もう一冊、大阪朝日新聞経済部『商売うらおもて』(日本評論社、一九二五年一〇月一日)に「一三、妾や後家さんの喫茶店 お客の舌をゴマかす珈琲紅茶」という記事を見つけた。

《近ごろ大流行の喫茶店。水商売にしては、大した資本は要らず、女手でもやれるといふのが取柄で盛んに後家さんやお妾さんに狙はれるところは先ごろの煙草屋、小間物屋そつくりである。自分は黒梳髪黒襟でキヤツシヤーと納まり、お客の取りなし万端は太子髷のウエートレス任せ。水色のカーテンをかけたり、未来派のつもりでもあらうところの洋画でも飾り立てればそれでニキビ党はもとより、甘党の薬缶親爺にとつてもこよない楽園が出現しようといふのだから気楽なものだ。》

「未来派のつもり」とは言い得て妙。次にコーヒーの原価計算がなされている。

《モツカ一ポンドの小売値段が一円三十銭、ジヤバのものはズツト下つて九十七銭、一流の店ではこの二ツを等分に混じて使用するが、これでウンと味を濃くしたものは瓦斯代砂糖代を含めて一杯の原価約八銭五厘から九銭で、十銭に売つては商売にならぬ。そこで大抵はモツカ二のジヤバ八ぐらゐ、場末などでは全然モツカぬきと来る。だから一杯十銭に売れば六銭は儲かる。》

さらに紅茶、ソーダ水、サンドイッチ、アイスクリーム、菓子の原価と売値のさまざまなランクを数字で説明しているのが参考になる。輸入紅茶は奢侈関税十割だそうだ。

《大体一流の店で平均四割の純益、二流で五割、三流になれば六割以上で、この社会でもグレシアムの法則が気遣はれてゐる。一日の売上高にして見れば五六十円見当から、悪くて二十円ぐらゐ。》

グレシャムの法則とは「悪貨は良貨を駆逐する」 として知られるもの。

《最近大阪に、あわたゞしい出入りを嫌ふお客を歓迎するといふのでコーヒー一杯三十銭といふ店が出来た。その代りコーヒー一杯で何時間遊んでゐても厭な顔をせず、チツプも戴きませんといふのだ。こゝにも旋毛曲りの現代人の商法がある。》

この当時、喫茶店ではチップが当り前だったようだ。

《喫茶店では酒類は売らぬ。だから喫茶店は届書一枚で何どきでも開業出来るが、酒類を置くとなるとなかなか許可が得られない。そこで考へたのが「家庭用」の酒類である。つまりコーヒーはお客の資格で、酒類は家族の資格で飲分けさせようといふ寸法。やはり裏には裏がある。》

「家庭用」の酒類とはどういうものだろうか?
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by sumus_co | 2011-07-25 21:44 | 喫茶店の時代

根津権現裏

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『古本倶楽部』258号(中野書店、二〇一二年二月)より。

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『平成23年第46回明治古典会七夕古書大入札会』(明治古典会、二〇一一年七月一日)目録を100円で買った。もう終わっているので(むろん終わってなくても注文できるものはないだろうが)目の保養のつもりで眺めていると日本図書出版の『根津権現裏』(一九二二年)の無削除本が出ていた。西村賢太によれば無削除本の寄贈本の中には藤沢清造自身が赤ペンなどで伏せ字部分を起こしたものが数種あるという。西村氏は無削除献呈本四冊を参照して新潮文庫版のための復元を行ったそうだ。

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こちらはある古書目録に掲載されていた聚芳閣版『根津権現裏』(一九二六年)。

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個展初日に来場されたOさんより『根津権現裏』(新潮文庫、二〇一一年七月一日)を見せられ、新刊情報にうとい当方はびっくりして、さっそく丸井(旧・阪急百貨店河原町店)のふたば書房で購入、メリーゴーランドで読みはじめる。

数日後、途中まで読み進めたところで、ある古本屋へ立ち寄った。例によってゴソゴソと紙くずのようなコーナーを漁っていると『アカツキ』マキノ五、といううすっぺらい冊子が見つかった。奥付が取れている(検索で判明した。新声社、明治三十五年五月刊)。中を見ると田山花袋の「重右衛門の最後」が掲載されている。田山花袋の出世作、その初出である。これは、これは、と思って買って戻り、『根津権現裏』はちょっと横に置いて、こちらを読み出したら、これが面白い。ヨーロッパやロシアの自然主義的文学から影響を受けながら、今読んでも違和感のない咀嚼がなされている。エンタテインメントとしても秀逸だ。クライマックスに到って大昔(高校時代か)に読んだようなおぼろげな記憶が蘇ってきたけれど、そこまでまったく忘れていたので新鮮だった。

『根津権現裏』が刊行された直後、田山花袋が激賞した(大正十二年)というが、それは当然だろうという気がした。むろん時代が二十年以上へだたっているわけだから、藤澤の筆致からはもっと複雑な(忘れ去れたという意味では加能作次郎のフロイト的描写とも共通するような)志向がうかがえるのだが、バックボーンは徳田秋声というよりも田山花袋のように思われた。

たしか龜鳴屋の『藤澤清造貧困小説集』(二〇〇一年)につげ義春が否定的な感想を寄せており、実際、それはやや物足りない内容だった(本はとてもいい造りだったけれど)。それらの短篇(というよりも長篇のさわりという感じ)からすれば、『根津権現裏』は相当な力作だ。自殺した友人の兄とのやりとりはかなり巧妙で、やや巧妙すぎてあざとい感じさえするくらいだが、解説で西村賢太が力説しているように飽きさせない筆致である。

このくらいのものが書ければ、作家として簡単に亡びるはずはないようにも思うのだが、大正末になると川端康成や横光利一らの若くて新鮮な作家たちが登場し、プロレタリア文学も力を得て来る。その流れのなかでは、田山花袋に激賞されたということこそ、ある意味、不運の始まりだったのかもしれない……。新潮文庫版『根津権現裏』、年譜も付いて、514円はお買い得であろう。
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by sumus_co | 2011-07-25 17:06 | おすすめ本棚