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秋刀魚の話

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『彷書月刊』11月号、珍品オークション特集。珍しいもの、いろいろ出ている。澁澤龍彦らの同人誌『ジャンル』創刊号(一九五五年七月)が千円スタート。入札受付は11月10日(月)必着。岡崎氏の「気まぐれ古書店紀行」は金沢へ。金沢文圃閣の田川氏にとても世話になったらしい。金沢、良さそう! 『ハルミン&ナリコの読書クラブ』二冊同時発売(11/5)の広告も出ている。目録ページの「なないろ文庫ふしぎ堂」では佐野繁次郎装幀の改造社版新日本文学全集が1,000〜2,000円(!)。といっても2,000円は『上田廣・日比野士朗』の巻だけだけど。

÷

昨日のつづきで、『随筆』の同じ号に内田巌のエッセイ「秋刀魚の話」も載っているので紹介したい。食物随筆と言っていいのだが、祖父から語り始めており、かなり内容が濃い。内田巌の著作に収録されているのだろうか? 

まずは「秋刀魚は目黒にかぎる」という殿様の話を父(内田魯庵)から何回も何回も聞かされたところから入る。魯庵もその父から何回も聞かされたのだという。

《祖父は江戸つ子の御家人だつた。東照宮警護御用人組、まづ今の巡査位だつたのだらう。十五俵二人扶持の世帯は鯛なぞは滅多に喰へず鰯や秋刀魚の下魚ばかり喰つてゐたのであらう》

《祖父は明治二十九年頃死んだから私は顔を知らない。晩年は失職して「おみな」と呼ぶ無知な女と一緒にゐた。おみなは人の良い下町風な女で打扇屋に再縁してからも私の家に時々遊びに来た。死んだ祖父の墓が目黒にあり、昔吉原の芸妓だつた父の実母即ち祖母お柳の墓もそこにあつたので、よく目黒の墓詣りの帰りに「栗めしと栗のきんとん」を喰べに連れて行かれた記憶がある》

《父はあまり食通ではなかつたから、どれだけ明治の味覚に精通してゐたか知らないが、ビフテキの好きな反面、江戸つ子らしい淡白な味を一生涯棄てなかつた。秋刀魚、くさやの干物、鰹、鰯、ぼら、とびうを、しじみ汁、柚をかけた小芋、千住の枝豆付きは季節のものだが、海苔は毎日の食膳に欠かせた事がなかつた》

《小学一年生頃は牛込の砂土原町三丁目に住んでゐた。明治三十九年頃で近所に熊本籠城の谷干城少将がゐたし、奥中将もゐた》《崖下の田町に上級生が居てよく一緒に曉星小学校へ通学した。その上級生は五年だから、よく一年の僕の手なぞを引いていたわりながら連れて行つた。その上級生が仏文学の山内義雄氏なのだ。上級には小牧近江も土方与志も長谷川路可もゐた。三丁目八番地に埼玉協会と云ふ学生の宿舎があつて、大島雅太郎氏が住んでゐた。その後その同じ家に昇曙夢氏がゐた。昇さんとはよくお湯屋で一緒になつた。銭湯の好きな父は、家に風呂があつても銭湯の方が湯がたつぷりして気持が良いと云つてちよいちよい出掛けた》

大島雅太郎は後に三井合名本社常務理事になるが、戦後は財閥解体で没落した。竹柏園門下の歌人であり古書の蒐集家として知られ、また国文学者・池田亀鑑のパトロンだった。高田馬場の住居を青谿書屋と称したため大島旧蔵書を青谿書屋本とも呼ぶ。その住居は大島没後、佐藤栄作邸さらに竹下登邸となったそうだ。反町茂雄『一古書肆の思い出』に何度も登場している。

《父は朝の散歩は薬だからと云つて、朝早く霧のある内から私を連れ出す事があつた。そんな時は新見付の堀端にあるミルクホールにきまつて立寄つて熱いミルクを飲んだ。富士見軒の西洋料理と四谷の三河屋の牛肉、それから名を忘れたが、神楽坂の毘沙門前の支那料理を時々喰べさせて貰つた。永井荷風の新橋夜話に出て来る風月の洋食や因業屋のライスカレーは五年生頃あらはれたやうな気がする。五年生の春従兄達と浅草に行き「だるま」で喰べた天ぷらで大腸カタルになり更に急性腹膜炎になり一年間休学した。私の病気は腹膜炎であつたが、発動期に伴つた一種の神経衰弱だつた。私は沢山錦絵を買つて貰ひ病床の上で毎日武者絵を模写した。カラーやスタジオの水彩画の手本も父から与へられた。画家になる最初の動機がこんな処にあつたのかも知れない》

長くなったが、あまりに面白いので、明日も引用を続けたい。文中《カラーやスタジオ》は海外の美術雑誌だろう。『THE STUDIO』は一八九三年創刊のアーツ・アンド・クラフツ・ムーヴメントを反映した雑誌で、今でもときおりみかけるし、日本の古本屋にも何冊も出ている。カラーは?
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by sumus_co | 2008-10-26 21:24 | 古書日録
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