堀井梁歩訳『ルバイヤット異本留盃耶土』(南北書園、一九四七年)。下鴨で300円。私家版百部の『異本留盃邪土』がこれに先行してあるらしいが、一九七〇年代に秋田の叢園社の叢園叢書から復刻もされている。
堀井梁歩は椎名其二の親友だったそうだ。椎名は野見山曉治氏の本によく登場するし、佐伯祐三の最後を看取った人物の一人でもある。蜷川譲『パリに死す : 評伝・椎名其二』(藤原書店、一九九六年)も出ている。ともに秋田出身でアメリカにも渡り、ホイットマンやロマン・ロランを尊敬し、そのように生きようとしていたようだ。
巻末、安倍能成の「堀井梁歩君」によれば、高等学校時代(一高)の同級生の椎名純一郎とその弟其二とはともに安倍の親しい友であった。
《純一郎君は郷里で小さな新聞などを出してゐたが、失敗したものか、数年前から東京に出て来て、昨年死んだ。其二君はフランス人を細君にしてパリに居たが、今はどうしてゐるか。二人共に天下有用の材にあらざることと、その素質に於て、詩人的なことは堀井君と共通して居る。》
南北書園(なんぽく・しょえん)はずっと注目しているのだが、めったに出会わない。奥付に貼られている検印紙がすばらしい! 以前にも指摘したように、このデザインは松本竣介だろう。南北書園の装幀を何冊も手がけているし。
ルバイヤットの冒頭より。
酒のまぬおのこは好かぬかな
同じ屋根の下に寝(いね)たうもなし
同じ方舟(はこぶね)に乗り合ふもうし
ひたすらに怕(おそ)るる後の祟(たゝ)りかな
あまりにな信じそ聖徒の力
徒らに流されし紫の血潮の痕
水をもて洗ひ流されんと
はた かぐはしき花にしもあれ
(中略)
大海に注ぐ道を誰かは知らん
流るるままに流れ去るべし悲哀(かなしみ)の淵より
酒を飲むべし往く道は遠からじ
旅の終りは我人共に来るべし