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悪の花

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杉本秀太郎訳『悪の花』(弥生書房、一九九八年、装幀=望月通陽)。『spin』02の「翻訳をめぐる意味と無意味をめぐって」のなかで、小生は、ボードレール『悪の花』の杉本訳を引用しているのだけれど、恥ずかしながら、この本が出ていることは知らなかった。最近、見つけて驚いたしだい。

『プレイボーイ日本版』に拙著を取り上げてもらったからというわけではないが、今月号の同誌は「詩は世界を裸にする」という、まったくもって意外な特集だったので、つい買ってしまった。目玉の「池澤夏樹が選ぶ20世紀の詩人10人」は、オーデン、サバ、エリティス、アシュベリー、プレヴェール、ビショップ、ミショー、カヴァフス、シンボルスカ、谷川俊太郎。……誰が選んでも世界中で十人では偏ってしまうネ。

それとは別に、ランボー、ボードレール、コクトー、ギンズバーグ、スナイダー、ケルアック、カミングズ、ボルヘス、ネルーダ、パス、ヘッセ、中原中也、寺山修司、田村隆一、金子光晴のアンソロジーがあって、谷川俊太郎のインタビューで締める。はっきり行って入門編もいいところ。「ひねらんかい!」と叫びたくなった。

『プレイボーイ日本版』は来年一月号で終刊が決定している。ならばもっと突っ込まんかい! 他の記事では「新世代のストライカー 鄭大世、国籍の壁を超えて」がよかったように思う。

上のアンソロジーで、ボードレールは『悪の花』から「人殺しの酒 Le vin de l'assassin」が粟津則雄訳(海外詩文庫、思潮社)で引用されている。杉本訳を手に入れたばかりなので、おもしろがって比べてみた。毛色というのか言葉つきのグレードはかなり違っても、日本語の文章の構造そのものはそう大きな変化はないようだ。ただ杉本訳はわざわざ下衆な悪態を選んでいるので、やや無理をしたかな、というところがなきにしもあらず。

Cette crapule invulnérable
Comme les machines de fer
Jamais, ni l'été ni l'hiver,
N'a connu l'amour véritable,

Avec ses noirs enchantements
Son cortège infernal d'alarmes,
Ses fioles de poison, ses larmes,
Ses bruits de chaîne et d'ossements !

ぐうたら一方の酔っぱらいなんてやつは
鉄を組み立てた機械みたいなものだ
夏だろうが冬だろうが ぜったいに
本気で惚れてるとはどんなものか 知っちゃいないよ

こいつと どす黒い快楽とは腐れ縁だ
妬(や)けるたねの 地獄の行列
毒薬の小瓶 人知れぬ涙
獄舎(ごくや)の鎖の音 墓場の骨の音
[ここまで杉本訳]

鉄で作った機械のように、
傷つくことのない放蕩者は、
夏でも冬でも、一度だって、
ほんとの愛など知らなかった。

そういう愛につきものの暗い魅力も、
地獄の行列さながらに連なる不安も、
毒薬のびんも、涙も、鎖や骨の
がちがちと鳴る音も、知らなかった!
[こちらが粟津訳]

《ぐうたら一方の酔っぱらい》と《傷つくことのない放蕩者》ではまったく意味が違う。《invulnérable》は単純に「不死身の」だから、次に出る「鉄の機械」にひっかけているはずで、《ぐうたら一方の》はちょっとどうだろう。また、いちばん極端に違っている《妬(や)けるたねの》と《連なる不安》も納得がいかない。《alarmes》は「アラーム(警報)、激しい不安」。杉本がどういう理由で《妬(や)けるたねの》としたのか、本人に聞いてみたい。粟津訳がとくにいいとも思えないにしても杉本先生きばりすぎかも。いずれにしろ翻訳は難しいものである。

÷

昨日の出版人との話のなかで、雑誌の無料コンテンツ化についての話題も出た。要するに、雑誌をデジタル化することで制作コストを下げ、印刷配布する必要がないわけだから、その分をコンテンツについては無料にして、広告料だけで成り立たせる、そういうことらしい。ということは、雑誌がなくなるのは、もうすぐ目の前の現実だと思わざるを得ないようだ。
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by sumus_co | 2008-08-05 21:15 | 古書日録
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