林蘊蓄斎の文画な日々
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All mankind is one volume

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坪内祐三『東京』(太田出版、二〇〇八年、装丁=木庭貴信)。駅ビルのブックファーストにて。ちょうど原稿料代わりにもらった図書カードを持っていた。なかなか凝った装幀だ。木庭貴信で検索すると、文字の使い方に工夫が感じられる仕事がいくつもヒットする。紙の選択もいい。『クイック・ジャパン』連載時に組んでいた北島敬三の写真も多数掲載されており、それらに力があるというか、同じような東京写真は山ほどあるが、ちょっと抜けている。本文はこれから読む。

÷

風邪で寝込んでいるときにけっこうDVDを見た。なかでは「真珠の耳飾りの少女」(ピーター・ウェーバー、2003)と「チャリング・クロス街84番地」( デビッド・ジョーンズ、1986)が良かった。前者は十七世紀デルフトの光の感じや風俗がそれらしく演出されている。ただしフェルメールがあんな陰気な男とは思えないし、「真珠の耳飾りの少女」のモデルが小間使いとも思えない。コレクターと画家と画家の義母の関係も作り物めいている。まあ小説です。絵画に関する道具立ても当時の様子を忠実に再現しているようにも見えるものの、どこか、しっくりとこない。スカーレット・ヨハンソンの分厚い唇がいちばん印象的だった。

「チャリング・クロス街84番地」はかなり昔に原作を読んでいたが、細部は忘却の彼方だったので、それなりに面白く見た。一九四六年のこと。ニューヨークの駆け出し女性脚本家へレーン・ハンフが、イギリス文学のオリジナルを買おうとするのだが、ニューヨークの本屋では「そんなものはないよ」とすげなく断られる、あるいはバカ高い値段が付いている。そこでロンドンの古書店へ手紙を書いて、欲しい本のリストを同封する。社員が五人いてデューラーの版画なども扱っているから、それなりの店である。そこから脚本家へレーン(「卒業」のアン・バンクロフト)とロンドンの古書店社員(番頭格)フランク・ドエル(レクター博士! アンソニー・ホプキンス)の手紙のやり取りが始まり、戦後の物資不足だったロンドンへヘレーンが食料を送ったりする濃やかな交遊が続く……。

まあ、本の扱いなど、細かい点で気になるところはあったが、一九四〇年代後半から一九七〇年あたりまでの時代を二元的(NY/ロンドン)に描いた物語としてはけっこう楽しめた。ただ名優二人が若干年を取り過ぎているような気もしないではない。もっと無名の俳優でやってもよかった。

チャリング・クロス街は古書街として有名らしいが、小生はロンドンではまったく古書店をのぞいたことがない。Nさんのオックスフォード便りに期待しよう。ちなみにこんな街らしい。
Charing cross road

そうそう、映画の中でヘレーンがジョン・ダンの作品集を入手して読み上げるくだりがあった。

"All mankind is one volume. When one man dies,one chapter is torn out of the book and translated into a better language. And every chapter must be so translated. God employs several translators. Some pieces are translated by age, some by sickness, some by war, some by justice. But God's hand shall bind up all our scattered leaves again for that library where every book shall lie open to another."
http://elvis.rowan.edu/~kilroy/JEK/03/31.html

人類は書物であり、神は作家である、そういうことだろう。で、ピンときたのが芥川龍之介の『侏儒の言葉』。

《人生は落丁の多い書物に似ている。一部を成すとは称し難い。しかし兎(と)に角(かく)一部を成している》「人生―石黒定一君に」

石黒定一は芥川の友人のようで、『ダグラス派経済学全集 第二/生産の統制と分配 』(ダグラス著、春陽堂、一九三一年)の訳書がある。芥川の警句にはたいてい何かしら出典のようなものが見え隠れするが、このフレーズはジョン・ダンから頂戴したとまでは言えないかな。あるいは、神は落丁の多い書物の作者であると暗に言いたいのだろうか。
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by sumus_co | 2008-07-30 21:31 | 古書日録
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