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フールズキャップ

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やはり寝込んでいる最中に届いた『日本古書通信』948号(今号からレイアウトが少し変わった)を読んでいると、白戸満喜子「道化師の帽子[ルビ=フールスキャップ]ー西洋の手漉き紙」という論考が目に留まった。エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』に出てくる「フールズキャップ」(翻訳により表現はさまざま)という単語に着目してポーの時代の紙について述べてある。上のイラストは『黒猫』(岩波文庫、一九二七年)に収録されている「黄金虫」のイラスト(HARRY CLARKE)。

"Never mind," said he at length, "this will answer"; and he drew from his waistcoat pocket a scrap of what I took to be very dirty foolscap, and made upon it a rough drawing with the pen.[http://www.4literature.net/Edgar_Allan_Poe/Gold_Bug/]

「なあに、いいさ」ととうとう彼は言った。「これで間に合うだろう」と、チョッキのポケットから、ひどくよごれた大判洋紙《フールズキャップ》らしいもののきれっぱしを取り出して、その上にペンで略図を描いた。彼がそうしているあいだ、私はまだ寒けがするので、火のそばを離れずにいた。図ができあがると、彼は立ち上がらないで、それを私に手渡しした。[佐々木直次郎訳、青空文庫より]

foolscap とは要するにA4判より少し縦長な紙のサイズ「Foolscap folio」8½ × 13½ inches (216 × 343 mm)のこと。正確には foolscap はその全紙 17 x 13½ inches (432 × 343 mm)のことだが、使用するのはその半切なので(folio に同じ)そう呼び習わされたようだ。

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もともとは fool's cap(道化師の帽子)をかたどった紙の透かし模様(watermark)から来ている。上の図版は十七世紀にレンブラントの版画用紙に用いられたさまざまなフールズキャップ(『レンブラント版画展』レンブラント版画展実行委員会、一九九三年より)。

ウォーターマーク(透かし模様)の同定によって制作年代や作品の真贋を見分けることができるのである。オランダ国立図書館ではネーデルランドで印刷されたインキュナブラ275点に見られるウォーターマーク4,000点のデータベースをインターネット上で公開している

フールズキャップの透かし模様は十五世紀にドイツで用いられているのが最も早い例のようで、イギリスへ入ったのが一五八〇年、議会議事録の用紙として用いられたと言う(ウィキによる)。ウォーターマークそのものはすでに十三世紀には使用されていた。

とまあ、フールズキャップの話をしてきたが、じつは『黄金虫』で主人公のルグラン氏が取り出したのは「フールズキャップのようなもの」で、フールズキャップではなかった。羊皮紙(パーチメント)だったことが後半の種明かしのところで分かる。

君があの羊皮紙の切れっぱしを渡してくれたとき
when you handed me the scrap of parchment

ポーはどうして最初から羊皮紙の切れっぱしとしなかったのだろうか? おそらく海賊の残した古い紙であるということを直接に連想させないようにするためではないかと思う。ということはポーが想定した読者にとってフールズキャップという呼称は羊皮紙と見まがうくらい古い紙をイメージさせるものだったということになろうし、ルグラン氏が《古いユグノーの一家の子孫》だとされていることとも関係があろう。ユグノーは十六〜十七世紀頃のフランスの新教徒である。

とまあ、これは憶測にすぎないものの、白戸女史もその紙の原料が、木材パルプ以前の、麻や木綿のボロであるとし、《ルグランが取り出したフールスキャップは少ない原料で、かつ手漉きにより一枚ずつ作られていた時代の貴重な紙ともいえる》と書いておられる。要するに、ポー・マジックの巧みさを現す単語なのだ。ただ、それを日本語に翻訳するとなると、さらりと無視するのが無難なのかもしれない。

ちなみに『出版事典』(出版ニュース社、一九七一年)にはフールス小判(333 × 424 mm)とフールス倍判(424 × 667 mm)という原紙の規格寸法が載っている。これはまた日本独自のサイズのようである。バカの壁ならぬバカの紙?

安野光雅『安野光雅風景画を描く』(日本放送出版協会、一九九五年)より、フランスのアルシュでコットン紙に特注した透かしとその製紙用ドラム。
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by sumus_co | 2008-07-25 21:42 | 古書日録
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