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湯ヶ島の思い出

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『新潮日本文学アルバム・梶井基次郎』(新潮社、一九九七年八刷)より。《昭和2、3年頃の川端康成(左より五人目)。右端宇野千代》とキャプションがある。この写真、なんだかとても昭和モダンな雰囲気をかもしていて、けっこう好きな一枚。

他の人物は当て推量(ご教示を)。左から二人目は池谷信三郎だろう。ちなみに「池谷」の読みは、松本八郎氏によれば「いけのや・しんざぶろう」らしい。検索では圧倒的に「いけたに・しんざぶろう」の方が多いようだが、国会図書館は「イケノヤ,シンザブロウ」を取っている。三人目は川端康成の新妻ヒデ(秀子)だろうか、と思ったが、コメント欄でご教示いただいたように、三宅艶子だった。川端の後ろの美女美男は鍋島田鶴子と岡田桑三(「東京シネマの創業者、岡田桑三について」)およびとなりのふくよかな女性は艶子の母三宅やす子である。左端が阿部金剛ということか。場所は伊香保温泉。撮影日は昭和四年六月(「日本近代文学館・写真検索」)。宇野のとなり後ろは当時の夫の尾崎士郎だろう。宇野のシナの作り方が目立っている。

湯ヶ島での梶井や川端らの交流は宇野千代はじめ何人もの作家が書き残しているから、ここでは、岡崎+山本『新・文學入門』の377頁にも出ている角川書店「昭和文学アルバム」の「川端康成アルバム」に淀野隆三が寄せている「若き日の川端さんーー湯ヶ島の思い出」という文章を紹介しておこう。

《初めて川端さんに会ったのは昭和二年の一月、梶井基次郎君が誘ってくれたお蔭である。
 その半月前の昭和元年の大晦日に、梶井君は転地療養のつもりで伊豆湯ヶ島温泉に赴いた。ここに川端康成が滞在しているということだけを心当てにして、土地不案内の梶井君は、当時宮内省の大官連の常宿であった落合楼に飛び込んで一泊したが、病気の貧書生の喜ばれる筈もなく、新年早々途方に暮れた。そこで梶井君は思い切って正月元旦、一面識もない川端さんを湯本館に訪ねたのである。川端さんは碁の本を読んでいたが、「快よく応じてくれました」と梶井君は書いている。そして川端さんの口添えで、梶井君は世古の滝の湯川屋に身の置き所を得たのである。》

むろん川端は梶井たちの同人雑誌『青空』を読んでいたから梶井のことは知っていた。といっても川端もまだ処女創作集『感情装飾』(金星堂、一九二六年)を出したばかりの新進作家に過ぎなかったが、当時から面倒見はたいへんよかったのである。

淀野はすっかり湯ヶ島と川端が気に入ってしまい、東京から何度も訪れ、ついには先日の手紙あったように夏場には長逗留することになる。昭和二年の淀野隆三日記の当該箇所を少し読んでみると、八月十三日には広津和郎夫妻と天城にドライブしている、そしてその夜、三好達治がやって来た。九月三日には梶井と三好と三人で俳句を作った。丸山薫もその場にいた。

《夜長を句作に送る。

 ぽつねんと岩に毛虫の秋陽哉(達治)

 日々の秋尾根の蕨のよう見える(基次郎)

 野分して松の幹赤き陽ざし哉(隆三)

 蛾のむくろたゝみに白し風の朝(隆三)

達治の句尤も秀れたるものなり。基次郎の句「よう見える」の五文字何気なきやうにて、「日々の秋」以下の文句にしつくりしたるが如く、また釣合はないが如く、我にはやゝ解しがたし、他の二子(達治、薫)はほめたる句なり。外に基次郎には

 秋の空や我また何か忘れゐる

の句あり、やはり後の五文字あまりにはつきり云ひきりたる跡みゆるやう思はる。

 青柿のしきりに落ちて広い庭

達治の句。「広い庭」と云ひだせる力〓[量]優れたり。》

なごやかな空気が流れているようで、ちょっとトゲもある。その証拠に《友人に即するな。友人を敵と思へ。そこに真の友人の道が拓けるのだ》とこの前に頁に淀野は書き付けているのだ。いずれにせよ、どの句もさほどとは思われない。

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大原富枝『彼もまた神の愛でし子か 洲之内徹の生涯』がウェッジ文庫から近刊だとか、晩鮭亭さんが書いておられた。検索するとアマゾンで近刊となっていた。もちろん元本は所持しているが(けっこう入手困難らしい、日本の古本屋にも現時点では出品されていない)、文庫はまた欲しくなる。ウェッジ文庫なかなかやるじゃない。
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by sumus_co | 2008-07-09 21:44 | 古書日録
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