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なつかしき日々

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大岡龍男『なつかしき日々』(三杏書院、一九四三年、装幀=山田伸吉)。これもブッダハンドのご利益。200円。大岡龍男(1892〜1972)には『不孝者』(天青堂、一九二七年)、『妻を描く』(春陽堂、一九三九年)、『なつかしき日々』、『嫁』(東和社、一九五〇年)の著者があり、歿後『龍男拾遺』(大岡護一、一九七三年)が出ているようだ。ホトトギス同人だそうだが、俳句はどうなのか、検索してもあまり見つからなかった。

 夏衣田中絹代は衰へず 龍男

しかし小説はなかなかいい。巻頭が「ユウタナジイ」。病院でひどく苦しむ妻を注射で安楽死させるまでが描かれている。淡々というのでもないが、大げさでなく自然に物事が進行していく。それがけっこう感動的。

ユウタナジイ(euthanasie)というのはフランス語で、鴎外の『高瀬舟』で用いられたことによって日本でも知られるようになった言葉のようだ。フランスでは二〇〇五年に尊厳死に関する法律(レオネッティ法、La loi Leonetti du 22 avril 2005)が可決されているものの、医師による積極的な安楽死は認めておらず、大統領に嘆願したが駄目だったシャンタル・セビ-ルの自死によって可否の論議がかまびすしい。ベルギーでは医師による自殺援助が認められているので、TVで見たインタビューでは「ベルギーへ行って死ぬしかない」と難病患者が答えていた。いずれにせよ、昔の日本では簡単に安楽死させていた、ということだ。

大岡龍男については日用帳さんが熱心なファンのようだが、再評価すべき作家の一人と思う。

装幀の山田伸吉については『sumus』にも書いたが、たまたまカロさんで買った『大阪人』二〇〇四年十月号に松本茂章「モダンボーイ山田伸吉」という記事が出ていた。出ているのは知っていたのだが、買いそびれていた。それを買った翌々日に大岡龍男を買うというのが、古本的コインシデンス(符合)である。松本氏の記事から年譜的記述を箇条抜き書きしてみる。

・一九〇三年六月十三日、西成郡稗島に、機械業だった敏之助の二男に生まれた
・両親が早く亡くなり親戚に引き取られた
・精華小学校、八尾中学校に学ぶ
・美術は独学
・友禅の着物の柄を描いていた
・道頓堀松竹座の支配人に見出され松竹座の宣伝部へ入る
・キネマ文字と呼ばれる手書き文字によってポスターなどを多数手がけた
・キネマ文字は山田が創案したわけではない
・一九二九年に松竹楽劇部の美術部に移籍、舞台装置、衣裳デザインを担当した
・妻は昭和初期の松竹楽劇部で日舞の名手だった東條薫
・今東光が山田と東條の新居に居候していた
・おしゃれで、苦労時代も洋服はオーダーメイド、靴はイタリア製だった
・昭和十年代に上京、英太郎(はなぶさ・たろう)、喜多村緑郎、柳永二郎、古川緑波、長谷川幸延らと仲が良かった
・戦後、日劇の舞台美術、大阪松竹座の仕事をした
・衣笠貞之助の映画「浮舟」(大映)の美術担当
・晩年は歌舞伎の名場面を描く画業に専念
・一九八一年三月一九日歿
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by sumus_co | 2008-05-19 20:42 | 古書日録
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