林蘊蓄斎の文画な日々
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平日抄

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寿岳文章『平日抄』(靖文社、一九四七年、装幀=芹沢銈介)。上の図はジャケット、下は表紙。どちらも和紙に木版刷。芹沢銈介もこのくらいだと鼻につかない。寿岳のエッセイ集。和紙の話、陶器、民芸の話、そして装幀の話。「自装本回顧」に「ぐろりあ・そさえて」の伊藤長蔵が登場しているので、一部引用してみる。

《再び私が装幀の問題を熱心に考へるやうになつたのは[略]『ブレイク書誌』の編纂に着手した昭和二年からである。その年の春、私は新村博士の紹介で、始めて伊藤長蔵氏を識つた。》

《氏は殆ど毎週のやうに、時には毎日のやうに、当時南禅寺畔にあつた私の寓居へ、神戸の店から為事の進みぶりを見に来た。氏は直情径行、一つの事を思ひつめると、矢も楯もたまらなくなると言つたやうな、実に愛すべき性格のあるじである。その代り自分の思ふことは、誰の前でも遠慮会釈なく言つてのける。なごやかな話がいつのまにか熱して口角泡を飛ばす議論にかはり、それが白熱して夜が更けても論戦尚やまずと云ふやうな折も少なからずあつた。当時氏は外遊の旅から帰つて、「ぐろりあ・そさえて」を創立したばかりで、新興の意気凄まじく、まさに日本のジャン・グロリエを以て任ずる概があつた。アシェンデイン・プレスやゴウルデン・コカレル・プレスや、ナンサッチ・プレスの存在を、浮彫のやうに鮮やかに私の心へ印銘させたのは、実に伊藤氏である。》

《伊藤氏がずつと出版業を続けてゐてくれたら、恐らく私は自分で向日庵私版をおこさず、ナンサッチに於けるメネル、フェイバアに於けるドリンクウォータァの役割を、「ぐろりあ・そさえて」のために果してゐたであらう。伊藤氏は今は全く兜町の人となつてゐるが、氏が再び書物道へ立ちかへつて、以前と同じ熱心さで、しかも以前よりは堅実に、出版業を遂行してくれるのは私の切なる望みである。》

寿岳と伊藤は『ブレイク書肆』の題箋や扉のデザインを柳宗悦に依頼した。その原稿が出来上がったとき伊藤は柳の目の前で自分の意見をずけずけ述べた(ようするに貶した)。

《柳さんも強い信念の人である。ことにこの時は自分が熱心にやつてゐただけに、よほど気に障つたと見え、伊藤氏にとやかく言はれて不愉快だから、あの為事はもうおことわりする、伊藤氏の気に入る誰か他の人に頼んだらよからう、と私へ手紙が来た。》

二人はあわてて柳邸へ詫びに駆けつけた。『ヰルヤム・ブレイク書誌』が刊行されたのは昭和四年だから、その前年あたりか。ちょうど柳が京都で応援した民芸共同体「上加茂民芸協団」が崩れようとしていた時期だった。四年に柳はハーヴァードのフォッグ美術館で教鞭を執ったが、帰国したときには協団は解散してしまっていた。鶴見俊輔はこう書いている。柳は

《田中豊太郎に「白樺はおたがいの非難をしなかった。そのことをとおして成長した」と語ったそうだ。『白樺』の文学運動から民芸運動がひきついだのは、この仲間ぼめの習慣だったと言える。》(『柳宗悦』平凡社ライブラリー、一九九四年)

靖文社は昭和七年ごろからの刊行物があるが、寿岳の文章にも出て来る新村出と関係が深いようだ。昭和二十二年ごろに東京から京都に出版地を移している。この本の出版も新村の斡旋だったのかもしれない。
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by sumus_co | 2008-05-15 21:27 | 古書日録
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