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ボマルツォのどんぐり

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扉野良人『ボマルツォのどんぐり』(晶文社、二〇〇八年、ブックデザイン=間美奈子)が届いた。包みを引きはがした瞬間(というのは晶文社は接着性のある段ボール紙でぴったりと梱包してくるからだが)、あの空中線書局の、間(はざま)さんらしくない装幀かな、と感じた。

むろんそれはこれまでの間さんのハードエッヂかつロマネスクな造本が目に焼き付いているためかもしれないが、しかしやはり、読み始めて読み終えた後で、ふと本の全体を見渡したとき、このちょっとした違和感を突きつけてくるデザイン、『ボマルツォのどんぐり』はこれでなくてはならない、いや、もう二十年前からこうだったんだとさえ思われるのは、やはり空中線書局のアルカロイドに当てられてしまったのだろう。もらった本には基本的にグラシンはかけないが、これには掛けました。

ところで、小生、澁澤龍彦の『滞欧日記』(河出書房新社、一九九三年)は読んでいない。ただ、『季刊みづゑ』(美術出版社、一九八七年一二月)の「追悼澁澤龍彦」および『鳩よ!』一九九二年四月一日号「特集・万有博士澁澤龍彦」の中に『滞欧日記』の一部分が引用されていたはずだと思って、探してみると、澁澤がボマルツォに出向いたのは一九七〇年一〇月二七日だということが分かった(後者に収録)。なおボマルツォについては下記のサイトなどを参照されたい。
PARCO DEI MOSTRI
PARCO DEI MOSTRI-BOMARZO-

扉野氏は『ボマルツォのどんぐり』の「ボマルツォのどんぐり」で次のように書いている。

《庭の入口のところに立てば向かいあう二頭のスフィンクスが鎮座し、その台座に銘が刻印されている。澁澤龍彦によると、左側の銘の大意はこうである。

  眉をあげ、唇をひきしめて
  この地を過ぎ行かずんば
  世界の七不思議たるものを
  嘆賞するも叶うまじ

 谷底の空気を一息吸いこむと私たちは森の奥へと足をふみいれた。さらさらと流れる水の音があたりを包んでいる。》

これは澁澤龍彦が『ヨーロッパの乳房』(立風書房、一九七三年)で「バロック抄 ボマルツォ紀行」としてボマルツォの怪物庭園を紹介した文章らしいが、じつは『鳩よ!』の日記に記録されている次のメモとは少し違う。

  CHI CON CIGLIA INARCATE
  ET LABRA STRETTE
  NON VA PER QVESTO LOCO
  MANCO AMMIRA
  LE FAMOSE DEL MONDO
  MOLI SETTE

  〜の眉毛と〜の唇をもつ者は、
  この場所へくれば必ず
  世界の最も有名なるものを
  AMMIRA(ADMIRER)する。

ネット検索してみると、アルゼンチンの作家シロ SILO(Mario Luis Rodríguez Cobos)がやはりボマルツォのことを書いており、この銘文は次のように英訳されている。

“Whoever does not walk through this place with eyebrows arched and lips pressed together, will neither know how to admire the famous seven wonders of the world.”

長ったらしいが、扉野氏が引用している澁澤訳とほぼ同じである。ここを見てビックリしないやつは世界の七不思議を見てもビックリするはずがない、それぐらい凄いところだぞ、と。まあ、これも庭園の主の洒落である。むろん、澁澤日記の方はまったくの初見の段階で、まだ訳文になっていないわけだが、それが推敲を経てみごとに文語調にまとめら上げられる様子がとてもよく分かる、ような気がして、また貴重と思った。

横道にそれすぎたが、そういう横道がいたるところに設けられているのがこの本の楽しさだ。

扉野氏のエッセイが、最初に印象に残ったのは、やはり『sumus』創刊号の「ぼくは背広で旅をしない」。文章が上手いとか下手とか、そういうことではない。まったくのマイペースぶりに驚かされた。この悠々たる書き振りは、いったいどういう神経なんだ? FESTINA LENTE(ゆっくり急げ)を地で行くような、的を射抜いているような外しているような。

それから幾星霜、というほどでもないけど、十年近くが流れ、ここに一冊にまとめられてみると、扉野氏の足取りはじつに正確で間違いなく行くべき道を辿っていることが、じつによく分かる。じゃあ、氏はいったいどこへ向かっているのか。答えはきっと二十三のときに書いた「辻潤と浅草」にあるような気がする。とりあえず、今のところ今年イチオシの一冊である。
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by sumus_co | 2008-04-17 23:03 | おすすめ本棚
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