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東京読書坂崎重盛『東京読書ー少々造園的心情による』(晶文社、二〇〇七年、ブックデザイン=平野甲賀)を頂戴する。江戸東京散策王こと坂崎翁の新著である。「泥鰌のつぶやき」にこの本のことが出ているが、平野甲賀さんの手馴れた、しかしきわめて渋い装幀が何ともいいかんじ。 《カミングアウトすると、私は、結果的には、腰かけ的に就職した役人造園家から逃散したのち、いや、そこからドロップアウトしたために、かえって造園家的心情を強く抱きつづけることになったようだ。 たしかに私には東京懐古趣味がある。濃厚にある。また夢か現かの、東京の路地・横丁の散歩、徘徊に身を浸して生きてきた。 しかし、これも、強弁すれば、東京という都市の今昔に切ない思いを抱く”造園家”としての私なりの作業、いや作用であった。》 『環境緑化新聞』に連載され、すでに八十回以上が『東京本遊覧記』(晶文社、二〇〇二年)に収録されたが、ここにはそれ以降のエッセイが収められている。百三十冊以上が紹介されおり、手際の良い内容紹介とその本にまつわる「東京」への思いがそれぞれに盛り込まれて、まずは坂崎翁の真骨頂といっていいだろう。なんと拙著『喫茶店の時代』(編集工房ノア)まで取り上げてくださっており、驚き、畏れ入ったしだい。 桑原甲子雄『東京1934〜1993』(新潮社、一九九五年)の項目を読み終わって新聞を取り上げると、桑原の訃報が出ていた。さっそく切り抜いてこの本に挿む。また、浅草に関するところ、武蔵野の関連書などをあれこれ拾い読みした直後に、鎌倉時代に浅草を描写した女性の話を聞いた。いい本を読むと、必ず不思議な符合が起る。その話というのは後深草院二条による『とはずがたり』である。そこにはこんなふうに書かれているという。 《八月(はづき)の初めつ方にもなりぬれば、武蔵野の秋の景色ゆかしさにこそ、今までこれらにも侍りつれと思ひて、武蔵の国へ帰りて、浅草と申す堂あり。十一面観音のおはします、霊仏と申すもゆかしくて参るに、野の中をはるばると分けゆくに、萩・女郎花・荻・芒よりほかは、またまじるものもなく、これが高さは、馬に乗りたる男の見えぬほどなれば、おしはかるべし。三日にや分けゆけども、尽きもせず。ちとそばへ行く道にこそ宿などもあれ、はるばる一とほりは、来し方行く末野原なり》 ま、ものすごいど田舎というか荒野のように描かれている。むろん、こんなものは想像の産物であって、実際の紀行文ではないだろう。 行く末は空も一つの武蔵野に草の原より出づる月影(摂政太政大臣『新古今』) 武蔵野は月の入るべき嶺もなし尾花が末にかかる白雲(大納言通方『続古今』) こんな歌からの連想にちがない。関東には古墳も多く、古くから栄えていたことは明らか。この『とはずがたり』の描写に独特の謎掛けを読み取った解釈がネット上で公開されていて、なるほどと思わせるものがある(後深草院二条で検索あれ)。ま、京都が世界の中心だった時代にはこういうステレオタイプな関東のイメージがひとり歩きしていたということだろう。 『東京読書ー少々造園的心情による』に見る(読む)重層的、多角的な東京イメージがいかに多彩なものか、思い知らされる気がする。京都本を集めても、ぜったいにこんなふうにはならない。もっと古典的なワンパターンに陥るのではないだろうか(むかしと逆ですな)。そこが世界の中心としての東京のパワーなのだろう。ちなみに人間は生まれた場所を世界の中心と考える傾向があるそうだ。むろん坂崎翁は東京生れである。 ÷ KYOさま 『画文共鳴』は高橋氏がプロデュースしたものだそうです。 小野さま 山六郎、いいですねえ。『文学時代』の表紙や挿絵を描いているのは見つけていたのですが、これにはちょっと興奮しました。
by sumus_co
| 2008-02-05 21:39
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