吉田健一『酒宴』(垂水書房、一九六六年)。垂水書房(池田書店の編集者・天野亮が独立して創業)は一九五七年から六七年まで十年ほど続いたようである。国会図書館検索ではやはり吉田健一の『シェイクスピア』(一九五七年)が最初にきているし、『吉田健一著作集』も出しているので吉田の協力な支持者だったことは間違いない。
福永武彦の『象牙集(訳詩集)』(一九六五年)の序に、荷風全集の月報に荷風の珊瑚集にかぶれて二十代のころに翻訳したノオトがあると書いたところ、《垂水書房主天野亮という奇特の士があつて、一面識もない私に訳詩集を上梓する用意がある旨を伝へて来た》と書かれている。
外山滋比古『中年記』(みすず書房、二〇〇七年)には《『修辞的残像』の版元、天野亮君の垂水書房が行き詰まって、つぶれた。借金のかたに、紙型が印刷の精興社にめし上げられてしまった。もうこれまでかと思っていると、みすず書房の小尾俊人氏が、うちで出す、と言ってくれた》とある。
装幀もシックというかストイックな垂水書房の本は集めてみたいもののひとつだ。巷ではまたもや有名出版社の倒産が話題になっているが、今にはじまったことではないなあと思ったしだい。