生田耕作編訳『愛書狂』(白水社、一九八〇年、装幀=野中ユリ)。これも高松のS堂にて。夏に見たときはたしか1600円だったのが、1をホワイトで塗りつぶして600円に値下げされていた。「?」と思って点検すると、なめくじか何かに函の上部と背の一部がやられている。本棚のいちばん下の段に置いてあり、コンクリート床にもっとも近かったためだろう。
十九世紀の愛書狂を皮肉ったような短篇小説集。フローベール、デュマ、ノディエ、アスリノー、ラング。フローベールの「愛書狂」は十五歳に達しない頃の若書きだそうだが、しっかり書けているものの、やはり味わいには欠ける。ノディエの解説で生田氏はこう書いている。
《わが国でも某氏の個人訳になる「ノディエ選集」が刊行されているから、たぶん「ビブリオマニア」もその中に収録されているものと思う》
氏一流の書きぶり。一九七五〜六年に牧神社から刊行された篠田知和基訳を指す。
十九世紀フランス忘却作家メモというサイトによれば、部分訳で収録されているらしい。
下の挿絵はセーヌ河岸の古本屋が荷物を運んで来たところ。現在は箱を堤防に取り付けたまま鍵をかける方式だが、かつてはこうやっていちいち持参していたようである。
÷
Mさんより今年最初の古本メール。後藤書店ももうすぐ閉店か。
《今年もよろしくお願いします。
今日は古書店へ初詣。後藤書店は閉店の半額セール中です。11時過ぎに着くとすでに店内に人が一杯です。あれも欲しいこれも欲しいと思いますが、資金も乏しく、森田草平「小説自叙伝」M44年裸本と露伴「長語」M34年裸本の2冊を記念に購入しました。前者は橋口五葉の装幀に魅かれて。長居をするともっと買ってしまいそうなので切り上げ大阪に戻りました。難波の天地書房店頭で私も独歩の「運命」復刻版を200円で。年末に黒岩さんの本を興味深く読みました。店内では「小説作法」武田麟太郎の裸本を400円で見つけました。他も回りましたが成果はここまでです。》
÷
『瓦版なまず』23号が届く。18ページなのだが、ほんとうに貴重な内容で季村敏夫さんの執念のようなものさえ感じる。内堀弘さんが「古本ノ読ミ方」というエッセイで江東文庫という古本屋のシール(レッテル)を見つけた話から「本の気配」について書いておられる。また安水稔和さんへのインタビュー続編は、竹中郁からボン書店、そして『兵庫の詩人たち』(神戸新聞出版センター、一九八五年)、稲垣足穂からエリオットまで、興味深いことこのうえなし。
文中、季村さんが《伊原秀夫さんは尼崎大物町で「風来舎」という出版社をやっていた》と発言されているが、《やっている》と現在形にしてもいいと思う。
÷