林蘊蓄斎の文画な日々
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まぼろし戸

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黒部節子『まぼろし戸』(花神社、一九八六年)。黒部節子さんを偲ぶ会によれば、一九三二年三重県飯南郡(現・松阪市)生れ、『暦象』創刊に参加、奈良女子大学卒業、「アルファ」の会結成。一九八五年、脳内出血に倒れ、意識の回復のないまま十九年におよぶ闘病生活を続けた。二〇〇四年歿。

「水」の前半。

 ひろいあげた新聞紙の小さなきれっぱしには 「水」
と四号活字が一つだけ印刷されていて 本の広告なのか
もっと長い文章の一字なのかぼんやり考えていると ど
うやらそれは掌の中で 少しずつ湿ってくるような気が
するのでした。
 みると「水」の活字はもうほとんど溶けかかってい
て わたしの手をうすいインクで汚しているのが判りま
した。そればかりではありませんでした。魚がいたので
す。それも三匹。掌の少しずつ増えてくる水の中で 魚
はようやく1ミリほどの大きさになりながらいそいでい
ったりきたりしていました。

『まぼろし戸』は子息・黒部晃一氏と小柳玲子さんの編集によって刊行された。黒部節子は『詩学』の嵯峨信之に「誰でもあなたの好きな詩人に会わせてあげる」と言われ、小柳さんを指名したそうだ。少し長いが、上記HPより小柳さんの回想を引用しておく。

《私は、黒部さんの詩集の作り方というのに、私なりの作りたい方法があったんです。それはうまく口で説明できないんですが、黒部さんが非常に怜悧なところが逆にいけないの。いけないというとおかしいんですけど(笑)、ぼわーっとしたものを受け取れないくらい頭が良すぎるもんですから、必ず詩集を作るときに、何か非常に怜悧に割切っていくんです。
  私はそういうふうにものごとを捉えられないので、黒部さんが黙っていたら、私ならこう作ってあげたいなって思うことがあります。
  一度私の家で、彼女も来て、相談して作った詩集が 「空の皿」 という、お病気が治ってやっと東京にも出て来れるようになったときに、みんな自宅で出版社の人とも会って作った。そのとき私は、黒部さんの言う作り方は、私にとってはちょっといけなかった。だけど何と言っても、彼女には彼女の信念があって、いやこうなんだと。一行たりとも絶対に譲らないので、しょうがないので、作っちゃったんですね。
  それからまもなく彼女が倒れた。そのときね、しめたと思ったんですよ、ある意味で。非常に失礼なんですけどね(笑)。そうしたら私が作るからと。

  ただし、黒部さんがまた治られて、こんなもの作っちゃ困りますと怒ると困るので、息子さんの晃一さんに何度も聞いたんです、全快の見込みがあるのと。そしたら彼が多分ないんじゃないかって。そうだったら私が彼女に成り代わって作りたいんだって。
  それが今読んだ 『まぼろし戸』 という一冊なんです。これは私はとってもうまくできたと思っているんですけど。作るのは、ものすごくやっぱり、自分のならどうでもいいんですけど、人のものを成り代わって作る、しかもあの神経の尖ってらした彼女のものを作るんですから、大変な気の入れようで、自分のものをまとめることの三倍くらい時間がかかり、作り上げた詩集です。》

÷

水戸芸術館ACM劇場が発行する『WALK』という雑誌が送られてきた。55号(二〇〇七年十一月十五日)。「活字のススメ?」という特集で、柴田元幸、永江朗、坪内祐三各氏らが執筆。小生も「読まない古本の買い方教えます」という納涼古本まつりの報告を寄稿している。活字離れは若者ではなく、実は老人だ、など、永江氏の分かりやすい分析はさすが。

また《売り上げ八千部前後の物書きである》坪内氏は学生が本を読まなくなったこと、一部少数者だけが《活字的感受性》を身につけていることを述べて、《活字的感受性を持っていることは楽しい。/人生が豊になる。/ハッピー・ヒュー、幸福な少数者という言葉があるが、彼らはどこまでその幸福な少数者であることに耐えられるのだろうか。》とし、その少数者を育てて行くつもりだという決意を示している。

÷

スムース様宛に広瀬国際特許事務所から手紙が届いた。出版年鑑などのリストからだとは思うが、内容は《「ミシュラン」名称を使用しないことのお願い》だった。ミシュランは言うまでもなくタイヤメーカーでミシュランのレストランガイドはあまりにも有名。近々「東京版」が発売されるのだそうだ。それに先だって、無断であのタイヤくん(?)やロゴや名称を使ってはならないというお達しである(というか宣伝?)。しかし商業出版物はともかく個人ウエッブサイトでも一切まかりならんというのは、知的所有権の濫用にあたるおそれもあるのではなかろうか。高校の学園祭の演し物にイチャモンつけたり、最近、ちょっとおかしくないか。
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by sumus_co | 2007-11-19 21:14 | 古書日録
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