林蘊蓄斎の文画な日々
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親友記

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足立巻一『親友記』(新潮社、一九八四年、装幀=早川良雄)読了。久々に読み進むのがもどかしいぐらい面白い作品だった。戦前から敗戦直後にかけての神戸の様子が見事に描かれていてグッときた。『神戸の古本力』(みずのわ出版、二〇〇六年)でもこの本の話が高橋輝次さんから出ている通り、古本屋の情報もいろいろと記されている。喫茶店もあれこれ出て来る。もっと早く読んでおくべきだった。

例えば阪急電車の上筒井の終着駅(西灘で乗り換え)に近い白雲堂という古書店。関西学院や神戸高商の学生たちでにぎわっていた(当時は後藤書店もこの通り沿いに店があった)。白雲堂には朝鮮人の「ぼんさん」(丁稚・少年店員のこと)がいた。主人公(足立本人)はなじみの本棚を眺めてから『文芸戦線』の目次を見ていた。昭和四年である。

《「そんな本は、もうつまらんよ」
 あのぼんさんがうしろに立っていた。
「『戦旗』を読みなさい、『戦旗』を。読むんなら一冊、新しいのを分けてあげるよ」
 わたしがうなずくと、ぼんさんは店の奥へしばらく引っこみ、新聞紙にくるんだものをそっと渡した。
「ひとに見せたらダメよ。うちで買ったといってもダメよ。これ発禁になるんだから」 
 代金を渡すと、ぼんさんは白い顔に人なつっこい笑いを浮かべ、「またいい本、出たら内緒で売ってあげる」といい、素知らぬ顔をして売り台に坐った。その『戦旗』には小林多喜二の『一九二八年三月十五日』が載っていた。》

古本屋の描写としては秀逸という他ない。じつにさまざまなことを考えさせてくれる。また戦後、昭和二十一年のこととして出てくるロマン書房もいい。小林武雄、亜騎保、富田砕花、竹中郁らが参加する詩人集団「火の鳥」の根城になっていたという。

《大弓正一がつれていってくれた根城は、湊川公園のトンネルを東へ抜けたところの山側のバラック建ての古本屋だった。〈ロマン書房〉という速成の看板があがっている。》

《昭和二十一年九月二十五日、『火の鳥』創刊号が出た。
 発行所はロマン書房である。公園一帯の焼け跡にはヤミ市がびっしり立ち、生臭い喧騒が終始渦巻いていた。『火の鳥』もまた、その喧騒のなかから生まれた。
 表紙ともに三十六ページの、それも粗悪なザラ紙の冊子であったが異様な熱気が充満していた。》

湊川公園のトンネルは神戸に住んでいたころにはよく通ったし、知人がすぐ近くに住んでいた。その人は詩人だったのだが、大地震の少し前に失職し(百貨店の出張販売員だった)、タクシーの運転手になりたいと言い出していた。長らく運転していなので練習がしたいから、車を貸して欲しいという。小生の軽自動車に二人で乗り込んで神戸市内を西へ東へ一日中走ったことを思い出す。彼のアパートがロマン書房の裏手あたりにあった。その南側一帯は福原という花街である。結局その詩人は社員食堂のコックになったのだった。

÷

書肆アクセスの本は正式に『書肆アクセスという本屋があったーー神保町すずらん通り 1976-2007』と決定した。本日ファックスで校正が届いた。小生は昨年のフェアーのときに小冊子に載せた文章と本のリストを転載することにした。装幀も小生の担当になっているが、まだ何も決めていない。店の写真をどこかに使って欲しいという南陀楼氏からの要望があったので、それはどうにかしたい。写真を撮るために、ではないが、今週、所用あって上京する。アクセスの最後の姿を記憶しておきたい。

空瓶の十ほど届く冷やかや
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by sumus_co | 2007-10-21 21:44 | 古書日録
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