林蘊蓄斎の文画な日々
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昏睡季節

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昨日の疑問にさっそく小林一郎氏が答えてくださった。氏より提供いただいた『東京新聞』(夕刊、1980年1月14日付)のイメージ。内容は大場氏の記憶通りに次のようなものである。単行本収録時のタイトルは「二つの詩集のはざまで」。

《 私の処女詩集は『液体』ということになっているが、じつは昭和十五年の秋に、少部数印刷された『昏睡季節』という小冊子がある。詩と短歌を収めたもので、詩歌集と謂うべきものである。短歌十数首ほどは、今読んでも、わが若き日のことどもを、懐かしく追想できる。しかし詩篇はどれも、未熟、生硬であって、私は認知したくないのである。冬を詠んだ短歌二音を披露してみる。

  窓硝子に干物影のあはくゆれ母咳多く冬となるかも

  雪風や女あんまの笛とほく聞える夜半の炭つぎにけり

 ひとづてに、『昏睡季節』が東京のさる古書展に出品されていると聞いた。ほぼ四十年前の無名の者の詩集が、いかなる経路を辿って、出現したのであろうか。私は一寸信じられない気持だった。昨年暮れに、ひと目見たいと思って、私は五反田へ行った。

 五反田という土地は、今まで縁のないところだった。ところが会社が倒産したために失職し、昨年、私はしばらくの間だが月一回、五反田公共職業安定所へ通うはめになった。失業保険金を貰うためだった。その帰りみち、池田山の小公園で桜の花を見たこともあった。
 やっと探しあてた古書展会場は、埃っぽく場末のわびしい雰囲気だった。陳列棚を一通り見てもなく、唯一のガラスケースの中を覗いても、『昏睡季節』は見当たらなかった。係の人にたずねることはなぜかためらわれた。私は仕方なく、備え付けの目録を調べた。それ[、、]は『液体』と並んで、ゴチック活字で印刷されて、高い値が付けられていた。せめてもの記念に、目録が欲しかったが一冊も余分はないとのことだった。駅の近くの喫茶店で、私はコーヒーをのみながら、暮れなずむ街を眺めていた。(『「死児」という絵〔増補版〕』筑摩書房、1988年9月25日、二八二〜二八三ページ)》

文中《会社が倒産した》とは一九七八年の筑摩書房倒産を指す。また日本古書通信社のT氏からも次のようなメールをいただいた。

《知り合いの東京新聞の記者》氏より《本日「古通」の記事を見た彼から電話があり、大変懐かしく読んだ、実は東京に入る前に十年ほど思潮社にいて吉岡さんとは親しく、家蔵の「昏睡季節」も見せられたことがあるとのことでした。/大場さんも、吉岡が所蔵していることは後から聞いたそうです。田村書店にも高価で売られているのを見にきたとか。自分の本が何十万もの古書価がついて厭な気持ちになる人はいないでしょうね。》

小林氏が余談として教えてくださったのは、田村書店に出た『昏睡季節』は五反田でそれを買ったコレクターが亡くなってふたたび姿を現したものだそうだ。また《『昏睡季節』は吉岡実の詩集で唯一私の手許にない書です》とのことで、これにもちょっと驚かされるが、書誌を編む際に《夫人からお借りした一本は「88」番本で、著者本ではありませんでした。「88」番本が吉岡実の手許にいつから置かれていたものか、残念ながらはっきりわかりません。》という。書物は流転する!

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田中栞さんより*「本と蔵書票の楽しみ」展・青森「空間舎」で開催 ワークショップ色々やりますのご案内をいただく。全国各地を精力的に回っておられて感嘆するほかない。詳しくは田中さんのサイトにて。重厚な蔵書票の図がたくさん出ている。

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手を篭に機織虫を借り来たり
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by sumus_co | 2007-09-16 17:14 | 古書日録
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