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トゥルー・ストーリーズ

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パリの観光オフィスが配っていたパリの地図(一九八〇年)。ポール・オースターの『トゥルー・ストーリーズ』(柴田元幸訳、新潮社、二〇〇四年)を読んでいると、オースターがパリで貧乏生活をしているときに北ベトナムの憲法を英訳するというアルバイトをしたというくだりがあった。一九七二年から三年半フランスにいた、ということは、ベトナム戦争の最中である。その翻訳の御礼として夕食に招待された。それはこういうレストランだった。

《そのレストランは五区にあって、私が住んでいるところからさして遠くなく、私も何度かそこで食べたことがあった。パリのベトナム料理店としてはもっとも簡素でもっとも安価な部類に入る店だったが、もっとも美味しい部類に入ってもいた。店内で唯一の装飾は、壁に掛かったホー・チ・ミンの白黒写真だった。》(「その日暮らし」)

この店の名前は記されていないがピンときた。「ホワイエ・ヴェトナミアン」といって五区のプラース・モンジュのそばにある。一九八〇年に何度かここで食事をした。ホー・チ・ミンの白黒写真は記憶にないが、ほんとうに安くて美味しい店だった。その西側にはムフタール街というにぎやかな市場があって若きナベツマが買物をしている間に小生はどこかへ電話をしていた。日本の電電公社が協力したという当時最新式の透明な公衆電話ボックスで用事を住ませて外へ出ると、隣のボックスにいた女性が英語で話しかけてきた。

日本人ですか、というようなことだったろう。彼女はアメリカ人だった。なんだかんだ立ち話をしていると、ナベツマと小さかった息子がもどってきた。彼女が、子供がいるなら絶対知っておくべきよと、パリでいちばん信用がおけると評判だったアメリカ病院の場所を教えてくれたりして、さいごに近くにある美味しい店として「ホワイエ・ヴェトナミアン」を推薦してくれたのだった。パリのアメリカ人の間では有名な店ということになる。

一九九八年にパリを再訪したとき、久方ぶりに「ホワイエ・ヴェトナミアン」で食事をした。場所も店の感じもたいして変ってはいなかったが、当時の日記にはこう書いてある。

《経営している人が年とったのにちょっと驚く。50Fのムニュはハノイふうのスープ(平たいヌードル、牛肉、たまねぎ、もやしに緑のやさい、レモンにとうがらし)蒸しギョーザ、デザート。妻はポークのブロシェット(ビーフンとミント、もやし、レタス付)。味の方も年老いたかんじがした》

÷

昨日、中川六平さんから電話があって、荻原魚雷くんの単行本が月末ごろにはできあがるとのことだった。装幀は間村俊一さん、小生が表紙画を提供している。間村さんから、これまでみたいに古本じゃなくて「へんてこな絵ないかなあ?」と尋ねられたので、ちょっと間の抜けたような風景画を送ったのだった。どう料理されたのか、中川さんの話では間村さんも上出来だと喜んでいるそうだ。たいへんに楽しみである。
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by sumus_co | 2007-04-10 21:16 | 古書日録
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