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やうやうに年押しつまる月暦

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五来達訳『プルウスト全集失はれし時を索めて第一巻スワン家の方』(三笠書房、一九三七年)を天神さんで求めたことは先日書いた。訳者の五来達について、ひょっとしてペンネームかと思ったのだが、早速に「つばめ」さんが井上究一郎のエッセイ「奇遇」のコピーを送ってくださった。深謝。

それによれば、井上究一郎も五来の何者なるかをずっと知らないでいた。《三笠書房にいた私の親しい某氏にたずねたことがあったが、御本人は社には見えず、代わりの人がいつもくるので顔を見たことはない》ということで、その素性は二十年以上も分からなかったが、三笠書房版現代文学全集第六巻『プルースト』の月報に文章を依頼され、そのとき五来達なる人物に初めて会ったそうだ。

五来は(五来という苗字は水戸辺りに限られた珍しい姓とのこと)、旧制水戸高校から東大工学部と進み、長い闘病生活中にプルースト作品と出会い、昭和三年頃から翻訳を開始した。ドイツ文学を翻訳した原稿を三笠書房に持参したときにプルーストの訳稿もあるという話となり、社主の竹内道之助から出版を勧められて刊行の運びとなった。昭和九年から十年にかけて五巻を出して中絶した。(ということは上の昭和十二年版は再版か? その旨の記載はない)

この作品の初訳は『失ひし時を索めて 第一巻 スワン家の方』(1931-1934年、淀野隆三・佐藤正彰・井上究一郎・久米文夫訳、武蔵野書院)であろう。第一書房の雑誌『文学』の一号から翻訳連載が始まった。「コンブレエ」の冒頭はこうなっている。

《長い間、いつも私は早くから寝るのであつた。時々、蝋燭が消えると、すぐ私の眼はふさがるので、(眠るんだな)と自分に云ふ間もないほどであつた。》『文学』第一号

五来訳はこうである。

《長い間、いつも私は早くから床に就いた。時々、蝋燭が消えるとすぐ目は速かに閉ぢるので「眠るな」と独言する余裕もなかつた。》

また『失われた時を求めて』(1953-1955年、淀野隆三・井上究一郎・伊吹武彦・生島遼一・市原豊太・中村真一郎訳、新潮社)では

《長い間、私は宵寝になれてきた。蝋燭を消すとすぐ眼はふさがり、「眠るんだな」と思うまもないことがときおりある。》

である。原文は以下の通り。

Longtemps, je me suis couché de bonne heure. Parfois, à peine ma bougie éteinte, mes yeux se fermaient si vite que je n’avais pas le temps de me dire: «Je m’endors.»(version modifiée chez Gallimard en 1919)

最新の鈴木訳は持ち合わせないので分からないが、似ているようで、それぞれかなり異なっている。例えばタイトルの「失ひし時」と「失はれし時」では作品の意味合いまで変わってくるようではないか。翻訳とは難しい、あるいは不可能なもの、ほとんど創作と同じかもしれない。

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時折、このブログの閲覧者数を確認している。たいていは毎日二百人前後なのだが、先週の数日間、極端にアクセス数が増えた。十倍以上。なぜだろうとつらつら考えるに、ひょっとして『遥かなり、ペ・ヨンジュン』の装幀コメントをアップしたせいではないだろうか、ということに思い当たった。恐るべしヨン様効果。
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by sumus_co | 2007-02-16 20:54 | 古書日録
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