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滴滴と滑りゆくもの梅雨寒し
海文堂書店で山本氏より『大阪人』8月号もらっていた。特集・古本愛。山本氏は「いつものコースで出合った、掌中の珠。」と題された古書の達人コレクション執筆。大槻鉄男『樹木幻想』(編集工房ノア、一九八〇年)は気になる(また見せてね)。宇崎純一はどちらも「?」と思う。岡崎氏は神保町で大阪本を探索するの記。注目したのは古川綾子氏(ワッハ上方学芸員)の演芸関係コレクション、なかなか趣のある書影が並ぶ。カロさんも紹介されている。次号の特集も続・古本愛だとか。
17日、海文堂書店にちょっと早めに着いたので新刊をざっと眺めていて、間村俊一さんや南陀楼綾繁氏が絶対おもしろいと推薦していた、西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』(講談社、二〇〇六年)が目についたので購入。京都へ戻る電車の中から読み始め本日読了。いや、ほんとにおもしろかった。 文中にも登場するが、龜鳴屋が限定出版した『藤澤清造貧困小説集』(二〇〇一年)が急に読みたくなり、あわてて探し出した。すると、そこには龜鳴屋の勝井氏の手紙が挿まれていた。その中に次のような一文があった。 《絵をつかわせていただいたつげさんからは、「通読して、ちょっと物足りない感じでした。これまであまり評価されなかったのも分かる気がします」というお便りをいただきました》 つげ義春の評価はたしかにその通りだと思う。ただ、その物足りなさは、『藤澤清造貧困小説集』を読む限りでは、もっと読みたいという読者の気持ちをはぐらかすような体のものであって、文章そのものはなかなかいい、というか小生は好きだ。 西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』の方は、三篇の短篇で構成されており、いずれも藤澤清造への傾倒と女との同棲を軸とした佳作。「墓前生活」はややモノトーンな描写で(執筆時期が早い)、多少退屈な場面もなくはないけれど、次の「どうで死ぬ身の一踊り」、そして「一夜」へとの連続を考えれば、序破急の序にあたるとも思われ、全体のなかできちんと必要な位置を占めている。 そう言う意味では《藤澤清造と瓜二つである》(帯の久世光彦評)というのはどうだろう。西村賢太はちゃんと計算のできる男であって、作品の完成度からしても、藤澤のように芝公園で凍死することは決してないように思われるが、ともかくコレクション癖のある人間にとっては一気呵成の小説だ。 その西村氏が編集に着手している『藤澤清造全集』(朝日書林)はとっくの昔に出たものとばかり思っていたら、内容見本ができただけだという。内容見本は出た時に朝日書林から送ってもらったので所持していたが、つい先日、ある恩人が探しているというので、恩を着せる、あ、いや、返すために差し上げた。内容見本としても異例、出色のものである(コピーだけはとっておいた)。全集もさぞやと思われる。 海文堂書店のトークに来てくださったMKさんより絵葉書をいただいた。 《林さんがあんなに、おしゃべり上手とは驚きました(失礼!)横道にそれたかと思えば、すかさず軌道修正される手腕は、お見事の一言。もちろんその横道も愉しかったのですが……。それにしても北村サンは理想的な古本道をすすんでおられるようで、せめてワタシもあの年頃から古本に親しんでいたならなあと、うらやましくなりました》 しゃべりをおほめいただくとは、こちらも意外。早口すぎたと反省してます。古本道に早いも遅いもござらぬ。すべて自らの眼力のみ。どんなつまらない本にもなんらかの取り柄あり。互いに励みましょう。 阿瀧さんよりご教示あり。昨日の『ホトトギス』は中村不折で間違いなかった。ホトトギスの目次集を見ると同じ絵柄で色違いの第九巻第一号の目次には表紙(天馬)中村不折と明記してある。
by sumus_co
| 2006-07-20 20:55
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