林蘊蓄斎の文画な日々
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ぬぐへどもこぼるる暑さ肩先を

黒岩比佐子『『食道楽』の人村井弦斎』(岩波書店、二〇〇四年)読了。内容の広範、濃厚なことは言うまでもないが、簡潔な文章で、あふれるばかりの情報を捌き切っている黒岩女史の筆力にまず敬服した。四百頁以上ある本書、これでも相当に削りに削ったというから、一行の重さは並みじゃない。

ある人から、村井弦斎が若い頃、アメリカへ渡った(一八八四年)のは徴兵忌避が目的だったんじゃないか、ということを聞いていたのだが、本書では、その憶説は一蹴されている。その理由は、一八八三年十二月十八日に二十歳(徴兵年齢)になった弦斎は嗣子だったためである(射手座かな)。一八七九年施行の徴兵令に照らせば、嗣子は免役事項に該当する。忌避しなくても兵役に就く義務はなかった。ただしこれは一八八三年十二月二十八日に改正されて翌年一月から施行されているから、危うくタッチの差であった。

報知新聞に「食道楽」などを連載して一躍流行作家となった弦斎は一九〇六年に報知社を辞め、同年に創刊された実業之日本社の雑誌『婦人世界』を執筆の場とする。このとき社長の増田義一と約束した報酬というのが雑誌一冊一銭の印税方式だった。返品制の導入にもよるところもあって『婦人世界』の売り上げ部数は驚異的な伸びを示し、一号あたりの部数が最高三十一万部に達した年には、弦斎の年収は三万六千円になった?(この点についてはHisakoさんからのコメント欄を参照されたし)。

三万六千円たって、明治末から大正初めのことだ。今ならその一万倍になる、かどうか知らないが、仮に一万倍とすれば三億六千万円。バカに売れた養老孟司先生ならそのくらいは稼いだ(?)かもしれないにしても、とにかくすごい。ベストセラーのヒントもちょこっと書いてあるぞ(p263)。

最近、わが家は玄米食で蘊蓄も快調なのであるが、言うまでもなく村井弦斎は玄米食の推進者、研究家でもあった。それだけにとどまらず、断食、木食と、どんどんマニアックにのめり込んで、神秘主義というか超能力にたどり着き、最後は少々悲惨な死を迎えることになる。

北大路魯山人と比較してみるのも一興かもしれないが、食を極めると、けっきょくそういうところへ行ってしまうのかもしれない。とにかくとんでもない力作評伝。
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by sumus_co | 2006-07-13 21:53 | 古書日録
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