林蘊蓄斎の文画な日々
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苗代や手ぶらで帰る水鏡

蟲文庫さんの俳句探し、加藤郁乎の〈冬の波冬の波止場に来て返す〉だろうと、阿瀧さんからもご意見いただきました。記憶というのほんとうに曖昧なものであります。

拙作俳句は、古本市場の横に水田があることから、ちょうど水を張っていて人影が写るのだ。

広津和郎『続年月のあしおと』(講談社、一九六七年)読了。野口雨情は菊池寛を負かすほど将棋が強かったとか。以前「文士の将棋熱」というエッセイを書いたことがあるが、増補できるくらい面白いエピソードだ。

中央公論社が滝田樗陰から嶋中雄作へと主導者が替わり、『西部戦線異状なし』(ルマルク、秦豊吉訳、一九二九年)の成功によって嶋中体制の基礎が築かれたというのも、なるほどなと思う。

大鐙閣という出版社について。鍋井克之の中学時代からの友人が三百万円という遺産を受け継いで始めた出版社。大正時代の三百万円は現在の百五十億円前後にはなろう。大正八年に『解放』という雑誌(タイトル文字は鍋井克之)を創刊したが、経営はおもわしくなく、てこ入れのため、短期間、広津は頼まれて編集の手伝いをしたという。


佐藤愛子『血脈』(文藝春秋、二〇〇一年)上巻読了。佐藤紅緑一家と福士幸次郎の行状を描いて力作である。ただ、ドラマの方が面白かったように思う。佐藤紅緑は原田芳雄だったが、これは頑固で甘い親父にぴったりだった。八郎(サトウハチロー)は唐沢寿明だったが、小説を読むと、どうも少しイメージが違うようだ。福士幸次郎の松方弘樹はビミョー。

八郎に詩を教えたのはイマオ(平野亥馬雄)だったそうだ。朔太郎の『月に吠える』をすすめられて読んで「イマさん、やっと少しばかし面白い詩集が出たね」などと生意気なことを言っていた。

佐藤紅緑の「ああ玉杯に花うけて」の原稿料は枚数で勘定しなかった。「俺は職人ではないから、原稿用紙の枡目に嵌めこんだ字数や行数で原稿料を勘定することは許さん。何枚書こうが一篇いくらとするように」。けっきょく雑誌『少年倶楽部』全体の原稿料の半分を占める三百円が支払われることになったという(p407)。
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by sumus_co | 2006-05-29 20:36 | 古書日録
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