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ハーディ 人生の書 

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ハーディ『人生の書』(日高只一編、南北書園、一九四六年八月二五日)。装画が松本竣介。先月末の大阪巡りのときにかっぱ横丁で求めた。

かっぱ横丁では梁山泊の百円均一がなくなってしまって、ずっと淋しい思いをしていたのだが、三冊二百円のワゴンが別の店にあり、いつも文庫ばかりなので素通りしていたのを、ちょっとのぞいて見たら、これが出ていた。抱き合わせの他二冊もいい具合にすぐ見つかった。『人生の書』、すでに同じタイトルを一冊持っている。しかしこれは確保しておかねばならない。松本竣介装幀では下記の本も紹介した。

小林龍雄訳『ふらんす短篇集1』(南北書園)
http://sumus.exblog.jp/12085318/

編者の日高がサウス・ウェセックスのドーチスタ(ハーディの物語の舞台となった地方)およびそこに居を構えるハーディを訪問したときの様子を描いたエッセイも収録されている。なかなか面白く読んだ。

《夫人に丁寧に迎へられ、席をすゝめられて、暫く対座して、種々と世間話をする。
 其処へハーディ翁自身が二階から下りて来られた。僕は其影を見ると思はず直ぐ席を起つた。八十有余の老大家、背が低くて、稍横に張つた体を、年の勢か、足したどたどと運んで来て、僕の前に立たれた、脳天は禿げて、周囲に残る髪は白くむしやくしやしてウェセックスに有名なヒースを思ひ起こさせる。静かに落ち着いて、而も力に、光に、暖さに輝く眼は枯草のやうな眉毛の下から覗いてゐる。懸崖から垂れる白いヘザーの様な口髭の下から静かに唇は動いて
  Good day, I am glad to see you.
と実に懇ろな挨拶の言葉に、出される手は皺がよつて、骨が太く、指が短い、翁が建築師であつた名残だなと昔を偲びながら、当方も初対面の挨拶から、招かれたお礼を述べながら手を出すと、暖かに握られる其手は年の勢か顫へてゐた。》

日高は仲介者なしに直接ハーディ宛に手紙を出して訪問を願っていた。普通なら返事はもらえないところだが、夫人から招待の手紙がホテルに届き、運良く会うことができた。こういう時は手土産が気になる。

《贈物の印として、友人に画いて貰つて、持つて来た日本画の扇面と豊国の浮世絵とを贈つた処が、それが非常に気に入つて先ずそれが話題となる。
「此絵は調子が非常に落ち着いてゐてよい、少しも浮はついてゐない、シムプルの中に含蓄がある」》

お土産のおかげか話がはずみ、ハーディの作品が日本で翻訳されているかどうかという話題になる。

《日本で私の作を読む者がありますかね」
「え、大分あります」
 心には難解の為か、さう沢山読む者がないといふ事を知りながらも、話のはづみで斯う答へざるを得なかつた。
「私の作の日本訳がありますか」
「短篇物は少しあるやうですが、長い物はまだないやうです。否、テスが半分だけ訳されて、後半だけ残つてゐます。実に惜しいと思ひます。》

ハーディは一九二八年に八十八歳で歿した。日高の訪問は一九二二年だから半分だけの翻訳というのは『テス : 運命小説. 前編』(山田行潦訳、文盛堂, 明治四十五年六月)を指すのだろう。しかし、この訪問の少し後で平田禿木訳『テス』(国民文庫刊行会)上巻(大正十四年)下巻(昭和二年)が出て、さらに続けて宮島新三郎訳、広津和郎訳、竹内道之助訳、石川欣一訳、山内義雄訳、井上宗次・石田英二訳、大沢衛訳、中村佐喜子訳、井出弘之訳、小林清一訳、田中晏男訳、高桑美子訳とごく最近まで翻訳はとぎれることがなく、『テス』の人気は素晴らしいと言わざるを得ない。今ならハーディに対して「そりゃもう、ずい分あります!」と胸を張って答えられるだろう。

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この本に張られているレッテル。アベノの天海堂書店は「古本屋タレコミ情報」によれば二〇一〇年頃まで営業していたようである。
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by sumus_co | 2013-10-11 21:01 | 古書日録
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