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浅井忠

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洲之内徹の話をするのだからと、久し振りに『絵のなかの散歩』(新潮文庫、一九九八年)から読み直し始めた。これは最初の単行本で、気まぐれ美術館連載以前の美術エッセイを集めたものだが、まだ完成の域には達していない語り口にかえって魅力がある。洲之内のなかではこの本がいちばん読んで面白いと思う、というか小生好みである。

なかで「麻生村」という一編は、茨城県の麻生を描いた宮崎丈二と浅井忠の絵について語られている。浅井の絵は農家の鉛筆デッサンで、浅井がいつ頃そこを訪ねたのか、洲之内徹は隈元謙次郎の『浅井忠』(日本経済新聞社、一九七〇年六月一五日)を取り出して調べ、そして隈元が明治十年代の浅井の写生旅行について書いた文章を引用している。残念ながら浅井が麻生村を通ったとは書かれていなかったが、洲之内はこう思う。

《なに浅井忠に無理に麻生村を通らせることはないし、また、そいつをやってはいけないと思うが、もし彼が実際に麻生村に行き、このデッサンを描いたのであれば、この「麻生村」は、「今日作品も残っていないようである」というそのときの旅行中の、今日残っている唯一の作品ということになるかもしれない。》(「麻生村』)

ということで、その隈元謙次郎の『浅井忠』を架蔵していたことを思い出して引っ張り出してみた。昨年だったか、売り物にならないからと、ある古本屋さんからもらったものである。たしかに、元の持ち主は画家だったようで、いたるところに絵具が飛び散った染みがついている。むろん、函やカバーもない。しかしながら今ではまったく見なくなった別刷貼付けのカラー図版は見事な発色である。元の定価が二万円(現在でもそれ以上付けている古書店は多い)、高級な画集だったことは分かるが、それにしてもこのクリアさにはちょっと驚かされる。

あらためて浅井の画業を俯瞰してみると、やはり油絵よりも水彩画の方が断然素晴らしい。例によって本を描いた作品と読む人を描いた作品を引用しておく。「本と花」そして「読書」

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「読書」(これは油絵)の方にはこういう裏話があるようだ。

《1901(明治34)年10月から11月にかけて、浅井と和田[英作]はグレー=シュル=ロワンで、風景ばかりを描いていたようだが、晩秋に入り寒さのために、室内で人物画も描くようになる。こうしたモデルを使った人物画制作に関して、従からしばしば言及されているのが、浅井と和田が交互につけた「愚劣日記」の12月の条である。まず11月29日に「ポール[ホテルの若い主人]にモデルの周旋を頼み、二三日内にモデル写生をやる筈にした」。12月3日、「今朝はモデルがくるから二人共朝早く起きた。十時モデルが来た。年は若いが児持で揺籃を引張つてやつて来た。写して居る内にも小児が泣く、何だか落ちおちかいて居る訳にも行かぬ。やり掛けたものだから仕方ないが、小児付きモデルはこりごりだ、下がきの木炭は二人共一日で終わった」》(『Paris、巴里、パリ 日本人が描く1900-1945』図録、石橋財団ブリヂストン美術館、二〇一三年、より)

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このように、元の持ち主はモノクロ図版に格子の線を引いて複写の助けとしていた。これではたしかに売り物にはし難いだろう……。

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グレーで浅井が写生した現場写真も掲載されている。

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晩年の浅井は京都で過ごし、デザイナーとしての仕事も多く残し、日本画も描いている。上は浅井の用いた印章の印影。「木魚」「黙語」「忠印」など。伝統的でありながらアール・ヌーヴォをくぐった感じを少し漂わせているように思う。
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by sumus_co | 2013-09-05 21:41 | 読む人
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